新規な一次構造の高分子物質を工業化することが難しい昨今では、添加剤や充填材などの副資材による機能付与、特性向上が喫緊の課題となっている。本研究では、高分子多相系における副資材の相間移動やそれに伴い生じる局在化、さらには温度勾配中で生じる偏析現象などの新規な技術を中心として、高分子中の物質移動と局在化に対する理解を深めると共に、この現象を新しい材料設計の手段として確立することを目的とした。研究の結果、ゴム状物質の中では低分子添加剤の拡散が容易に生じ、特に非相溶高分子ブレンド系ではその挙動が環境温度によって変化することが判明した。すなわち、環境温度に応じて低分子化合物の偏在状態を制御できる新しい技術となる。本技術により、材料の粘弾性特性を大きく制御可能である。例えば、低温下で連続相の弾性率が低くなる物質の設計が可能であり、オールシーズンタイヤなどへの応用が期待される。さらに、温度に応じて相間の屈折率差を変えることも可能であり、特定の温度で不透明になるスマートカーテンやビニールハウスなどへの応用が可能である。 また、一部の塩が高分子鎖の分子運動を抑制しガラス転移温度を向上させるという新規知見を得た。これに関しても、添加剤としての応用の観点から検討した。その結果、ポリアミドのガラス転移温度を80℃向上させる、ポリカーボネートの耐熱性や優れた破壊靭性を損なわずに剛性を向上させるなど、工業的な応用が期待される新しい知見を数多く得ることができた。 添加剤による高分子物質の改質という分野はこれまで大きな技術革新が少なかった。本研究の成果により、副資材を利用した機能化・高性能化をベースにした国内産業の活性化が期待される。
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