研究課題/領域番号 |
16H04202
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
前田 寧 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (60242484)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / ラマン分光法 / コヒーレントアンチストークスラマン / 光コヒーレントトモグラフィー / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
① OCTイメージング、3次元スキャニング機構の追加 平成28年度に試作したCARS顕微分光システムに光コヒーレンストモグラフィ(OCT)による解析機能を追加した。近赤外の高速波長掃引レーザを光源とするSwept Source OCT(SS-OCT)を構築した。試料中の屈折率に差がある領域間の界面で反射された光が再び参照光と混合されるときに、光路差のために干渉が生じる。高速波長掃引レーザを用いる場合、波長により干渉状態が異なるため、波長変化に同期して反射光の強度が変化し、それをフーリエ変換すると深さ方向の反射光強度分布が得られる(Aスキャン)。試料を光軸方向に移動させることなく1次元の断層像を得られるため高速な観察が可能になる。さらに、ピエゾステージとガルバノミラーを追加して、CARSおよびOCT測定で2次元、3次元スキャニングを可能にした。3次元測定の性能評価のために、高分子微粒子やミクロゲル分散液のイメージングおよびスペクトル測定を行った。 ② 温度応答性高分子の水中での相分離過程のダイナミクスの解析 温度応答性高分子の水溶液の相分離過程を2次元観察(C-H伸縮バンドの強度で画像化)および各点のフルスペクトルの測定を行った。相分離により生じる微粒子状の高分子濃厚相の成長過程と濃度変化をリアルタイムで追跡した。同時にアミドバンドやC-H伸縮振動のピーク位置より各官能基の水和状態の変化を追跡した。また、同様な解析を温度応答性ミクロゲルでも行い、イメージングにより体積相転移の過程を、スペクトルにより水和状態の変化を追跡した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に近い内容で研究を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
① 液中でのブロック共重合体の構造転移のダイナミクスの解析 試作した装置を用いて、温度応答性ブロック共重合の温度に依存した会合と水和状態の変化を解析する。親水性-LCSTブロック共重合体のユニマー ⇔ ミセル転移やLCST-UCSTブロック共重合体のミセル ⇔ 逆ミセル転移を対象とする。イメージングによりモルフォロジー変化を、スペクトル測定により水和の変化を追跡する。また、重水素を導入したモノマーを使って共重合体を合成すれば、そのC-Dバンド(約2100 cm-1)をC-Hバンド(約3000 cm-1)から分離することができる。この同位体ラベルの方法により、系に与える影響を、蛍光ラベルによる方法と比べて圧倒的に小さくして、単一の高分子鎖の動きを追跡することが可能になる。同位体ラベルポリマーを用いて、温度応答性ブロック共重合体のミセル化とそれに続くゲル化などの高次構造形成の過程における、単一の高分子鎖の動きと脱水和の過程を明らかにする。 さらに、親水性ブロックを立体安定化剤とする疎水性ブロックのRAFT沈殿重合において、疎水部の体積分率の増加に伴って、重合中にブロック共重合体がミセル ⇔ ワーム ⇔ ベシクルと会合体の形態を変化させる過程を、in situで測定する。 ② 高分子への細胞吸着過程の解析 試作した装置を用いて種々の高分子フィルムや繊維に対する細胞の吸着の過程を解析する。細胞の形態的な変化とともに、細胞内器官やマトリックス、タンパク質や脂質などの分子の分布の変化をCARSスぺクトルの3次元マッピングにより非標識で調査する。基材の凹凸や表面に作成したパターンの効果や、ミクロ相分離構造や表面グラフト層を有する高分子基材に対して、基材の組成の分布と細胞内器官・分子の分布の関係を調べる。
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