研究課題/領域番号 |
16H04206
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
戸田 昭彦 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70201655)
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研究分担者 |
田口 健 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (60346046)
野崎 浩二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80253136)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高分子結晶 / 融解 / 結晶化 / 超高速熱測定 / X線小角散乱 / X線広角回折 |
研究実績の概要 |
本研究では,結晶性高分子について,超高速熱測定と温度ジャンプによる高次構造解析を相関させることにより,結晶化と融解の非平衡物性を明らかにし,融点等の平衡物性量の決定手法の確立にアプローチしている。 結晶性高分子は通常分子鎖が折りたたまれた準安定状態として結晶化する。準安定な高分子結晶の融解温度領域では,再結晶化・再組織化過程が競合するため,その融解過程の理解は進んでいない。高速温度ジャンプが必要とされる高過冷却下での結晶化過程についても同様である。そこで,温度ジャンプにより得られた高次構造の観察と超高速熱測定とを併用し,これらの現象についての定量的な解析を行っている。 平成29年度は前年度と同様に以下の研究を数種類の高分子について行った。 1.今回導入した装置による超高速熱測定で,広い温度領域で結晶化させた高分子結晶の融解について,そのキネティクスを計測・解析した。また,高速温度ジャンプにより,広い過冷却度域で結晶化させ,高分子鎖の折り畳み周期・結晶の安定性を系統的に変化させた。 2.今回導入した高速温度ジャンプセルによる等温結晶化を行い,X線小角散乱・広角回折と顕微鏡法により,高次構造(ラメラ結晶厚)と結晶内の乱れを決定した。本年度は,小角散乱に加えて広角回折についてもその場測定を系統的に行った。また,顕微鏡法では,超高速熱測定装置をホットステージとして等温結晶化のその場観察を行った。さらに,透過型電子顕微鏡観察により,染色超薄切片のラメラ積層構造の結晶化温度依存性の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高速熱測定および温度ジャンプによる構造解析と顕微鏡測定により,広い結晶化温度域で得られる種々の物理量間の定量的な相関を解析することが可能となり,本年度も多種類の高分子試料(ポリプロピレンとその共重合体,ポリフッ化ビニリデン,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリアミド)での測定と解析を予定通り進めることができた。 超高速熱測定では,高速冷却による広い結晶化温度域で等温結晶化した試料について,高速加熱による融解過程をその場測定し,申請者らの先行研究で開発した手法を用いて融解キネティクスの解析を行った。 Ⅹ線小角散乱・広角回折では,ラボタイプのX線発生装置と放射光を用いて,温度ジャンプ後の高次構造変化の時分割測定を計画通り実施することができた。得られた結果から,等温結晶化時のラメラの厚化速度と結晶内の乱れの秩序化の度合いが高分子により異なることが見出された。 また,超高速熱測定装置をホットステージとした結晶成長の光学顕微鏡による直接観察により,広い温度範囲における結晶化キネティクスの定量的な解析を行うことができた。さらに,急冷試料の超薄切片試料の透過型電子顕微鏡観察によるラメラ積層構造観察をアイソタクチック・ポリプロピレンについて広い温度領域で行うことができた。 以上,熱測定による融解キネティクス,小角散乱による高次構造と広角回折による結晶内の乱れの決定,結晶成長その場観察による結晶化キネティクス解析の結果を総合することで,整合的な高分子結晶化機構とその融解機構に関するモデルを構築するための,基礎データを取得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
超高速熱測定法については,継続して多種類の高分子に関する結晶化と熱測定の研究を引き続き行い,Hoffman-Weeks, Gibbs-Thomsonプロットなどのプロット間の整合性,結晶化機構に関する意義について詳細な検討を行う。 Ⅹ線小角散乱,広角回折については,ラボタイプのX線発生装置を用いた測定を加速し,放射光による測定結果との摺合せを行う。 また,超高速熱測定熱測定で用いるチップセンサー上の極微試料のⅩ線小角散乱測定を試みる。この手法が実現できれば,高速温度ジャンプを正確に行った試料を解析することが可能となり,測定条件の幅が格段に広がることになる。 また,超高速熱測定装置をホットステージとする顕微鏡法によるその場観察についても,広い過冷却度域における結晶成長速度の測定を多種の高分子試料について引き続き行う。 さらに,透過型電子顕微鏡観察による急冷により作成した結晶性高分子のラメラ構造の直接観察により再組織化・ラメラ厚化・積層構造化変化についても明らかにしたい。 最終年度であることから,成果発表に注力する。
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