研究課題/領域番号 |
16H04211
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
後藤 孝 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (60125549)
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研究分担者 |
且井 宏和 東北大学, 金属材料研究所, 特任准教授 (70610202)
李 頴 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40789319)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炭化チタン / 炭化ジルコニウム / 固溶体 / 相分離 / スピノーダル分解 / スパークプラズマ焼結 / 熱時効 / 超高温セラミックス |
研究実績の概要 |
TiC-ZrC系などの遷移金属炭化物は全率固溶系であるが、これらの全率固溶体は高温における熱時効によって相分離する。この相分離を用いることによりナノ領域で第二相が微細に分散したセラミックス材料を開発することができる。本研究では、放電プラズマ焼結 (SPS) 法によりTiC-ZrC系固溶体を作製し、その後の熱時効により相分離させ、第二相の微細分散を用いて高硬度・高靱性・高強度セラミックス材料を開発した。SPSを用いることにより、二相分離する前に緻密化させ、準安定な固溶体を作製することができる。TiC-ZrC系では、組成によっては、TiC-リッチ相とZrC-リッチ相の二相の固溶体になるか、あるいは全体に一様な固溶体になる。本研究により、SPSにおける最適焼結条件を見出し、緻密な一様な組成のTiC-ZrC系固溶体を作製した。それらのセラミックス材料のSPSにおける焼結挙動を明らかにするとともに、機械的性質を調べた。得られたTiC-ZrC系固溶体を高温で熱時効することにより、二相分離する条件を見出した。全率固溶体の相分離には、スピノーダル分解か、核発生・成長による相分離のいずれかである。二相分離の組成依存性および時間依存性、二相間の結晶の整合性を調べることにより、この二相分離がスピノーダル分解に起因することを実験的に初めて明らかにした。また、二相分離にともなう機械的性質の変化を詳細に調べた。一般に硬さと靱性は相反する性質であるため、硬さが上昇すると靱性は低下する。本研究により、スピノーダル分解を用いることにより、TiC-ZrC系では硬さと靱性が同時に向上することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TiC-ZrC系の放電プラズマ(SPS)焼結における焼結機構、固溶体の生成機構、固溶体の機械的性質、固溶体の相分離挙動を調べた。TiC-ZrC系超高温セラミックスのSPS焼結を行い、2173K以下では、TiC-リッチ相とZrC-リッチ相からなる固溶体になるが、2223K以上では、単一相のTiC-ZrC固溶体になった。TiC組成の多い方がZrC組成の多い組成よりも焼結しやすかった。TiC組成が60mol%以上で相対密度が95%以上に緻密化した。2073K以上で作製したTiC-ZrC固溶体は27.2から29.3GPaのビッカース硬さを示した。破壊靱性は2.5から3.8 MPam1/2であり、ZrC組成が10mol%付近が最も優れた機械的特性を示した。10から70mol%の単一相TiC-ZrC固溶体は、1473から2273K、0.6から180ksの熱時効によって、TiC-リッチ相とZrC-リッチ相に分解した。熱時効によって、数十nmの第二相が生成し、ZrC組成の増加とともに、ノジュール状組織からラメラ-状組織に変化した。TiC-リッチ相とZrC-リッチ相は整合界面を形成し、TiC-リッチ相 {100}//ZrC-リッチ相{100}の関係があった。詳細な電子顕微鏡観察結果から、この二相分離はスピノーダル分解であることがわかった。二相分離は粒界から発生し、粒内に広がった。熱時効温度および時間の上昇とともにビッカース硬さは25から26GPaに上昇し、破壊靱性 (KIC) は2.5から3.3MPam1/2に上昇した。2073K、60 mol%TiCの組成で最も優れた機械的特性(ビッカース硬さ;25.2GPa、破壊靱性3.0MPam1/2)を示した。
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今後の研究の推進方策 |
高密度TiC-ZrCは相分離による自己組織化が(a)スピノーダル分解あるいは(b)核生成・拡散、のいずれかである。29年度までの研究で、組成によりスピノーダル分解する領域と核生成・成長により分解する領域があることが分かった。従来、超高温セラミックスにおいてスピノーダル分解が実験的に証明された例はない。本年度は、相分離挙動に及ぼす熱時効の時間および温度の影響を詳細に調べ、本系におけるスピノーダル分解機構を明確にする。 一般に窒化物は炭化物より融点が低いことから、TiN-ZrN系ではより低温で固溶体の生成と二相分離が起こることが予想される。本年度は、CをNで部分的に置換し、TiCN-ZrCN系において相分離が、スピノーダル分解であるのか核生成・成長によるのか、それが組成によってどう変化するのかを調べることにより、スピノーダル分解のより確実な証拠を示す。 セラミックス材料の機械的性質、特に硬さは、ホール・ペッチの関係により分散相の粒径が小さくなるほど向上する。本研究では、種々の熱時効条件により分散相の大きさの異なる材料を作製し、分散相の大きさと機械的性質の関係を詳細に調べ、最適な分散状態の材料を作製する。一般に硬さと靱性は反比例の関係にあり、硬さと靱性を同時に向上するのは困難である。しかし、固体内で二相分離により第二相が形成される場合には、整合した界面を有する第二相が形成され、さらに、スピノーダル分解では、従来の分散相の形態とは異なる。本研究では、最適な組成、熱時効条件を見いだし、硬さと靱性を同時に向上することを実証する。 実用材料としては、固溶体生成温度および二相分離温度はできるだけ低い方が好ましいが、反面、耐熱性が低下する。Ti、Zr、C、Nの組成を最適化し、より低温で二相分離し、より優れた機械的性質を有する作製条件および熱時効条件を見出し、実用材料の開発を目指す。
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