研究課題/領域番号 |
16H04226
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
佐藤 幸治 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 特任准教授 (20444101)
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研究分担者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (90401702)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 匂いセンサー / 嗅覚 / 生体機能利用 / 嗅粘液 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
平成29年度ではまず平成28年度に引き続き、培養細胞における嗅覚粘液構成成分の匂い応答への機能評価を実施した。嗅覚受容体を発現した培養細胞を嗅粘液構成成分や様々な化学的特徴を持った物質で処理し、処理前後における匂い応答を評価した。その結果、試験した物質のうち嗅粘液構成成分のみで、匂い物質である揮発性有機化合物に対する応答の増強が認められた。様々なリガンドと受容体の組み合わせにおける増強作用の比較と、その応答を反応速度論に基づくシミュレーションにより解析した結果、この物質は嗅覚受容体でなく匂い物質と相互作用することが示唆された。また新規に、味物質である不揮発性有機化合物の応答を増強する物質も見出した。 次に、不揮発性物質を匂いとして認識する魚類の匂い応答発生機構の解析を行った。キンギョはアミノ酸などの不揮発性物質に対する嗅覚受容体をもっている。金属充填ガラス微小電極を用いて嗅神経細胞の匂い応答を一細胞レベルで解析したところ、不揮発性の匂いに対する高感受性が一細胞レベルでも認められ、その閾値はすでに報告されている遺伝子再構成系よりも低く、水溶性の匂い物質でも陸棲動物と同様な生体と遺伝子再構成系との違いが認められた。 最後に電気化学計測による、溶液中の匂い物質の濃度測定を試みた。溶液中の揮発性有機化合物をリアルタイムで測定することは大変困難である。そこで匂い物質の酸化還元応答を電気化学的手法により計測し、その拡散係数から濃度の定量を行なった。これまでサイクリックボルタンメトリー法による測定を試みたが、再現性に乏しかったため、クロノクーロメトリー法についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画初期の実験のうち、要である培養細胞を用いた遺伝子再構成系を利用した実験実施により、嗅粘液構成成分による匂い応答増強とその特異性を確認できたとともに、その作用機序についても知見が得られつつある。また新規物質を見いだすことにも成功した。嗅粘液構成成分については生理学的に有効な濃度での培養細胞での作用も確認できたため、遺伝子改変動物を用いた動物実験の準備を進めており現在、実験動物と測定装置を準備中である。培養細胞における気相匂い応答評価は、その実験の困難さから計画と比べやや進捗に遅れがあるものの技術的課題を克服しつつある。 電気化学計測による定量に関しても検討を行っている。匂い分子は一般的に疎水性が高く特にサイクリックボルタンメトリー法では酸化還元応答後、電極表面に疎水性吸着し定量性が低いことが課題であった。そこでクロノクーロメトリー測定により定量的な計測が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究実施により、未知であった匂い認識における嗅粘液の作用に関し、培養細胞レベルにおいて匂い応答の増強効果を確認できた。今後、匂い応答を増強する分子機構の解明を目指すとともに、動物実験によりその生物学的意義を明らかにすることを試みる。 今後の研究実施では引き続き多様なリガンド、受容体、細胞外構成成分について細胞応答との関わりについてスクリーニング実験を行うとともに、生体を反映した気相匂い刺激と応答測定に取り組む。そのためにまず立体造形を利用したデバイス開発を実施する。また平成29年度、新たに不揮発性有機化合物に対する応答を増強する物質を見出し、それらを匂い物質として認識する魚類の匂い応答の解析により、嗅覚系以外にも多様な化学感覚受容体で細胞外構成成分による応答制御機構が関わることが示唆された。そのため研究対象を非揮発性有機化合物と嗅粘液だけでなく、バイオミメティックセンサーとしての可能性を模索するためにより幅広い物質を視野に入れ、解析を試みる。
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