がん関連線維芽細胞(CAF: Cancer-Associated Fibroblast)ががん細胞の力学的挙動に及ぼす影響について検討した.ここでCAFとは,骨髄由来の間葉系幹細胞,膵星細胞および常在線維芽細胞から複数の活性化経路により活性化した間質を構成する主要な細胞の1つである.このCAFががん細胞の上皮間葉転換(EMT: Epithelial-Mesenchymal Transition)を生じさせ,悪性化を亢進させていることがわかってきているが,主たる要因がCAFが産生するサイトカインによる化学的作用によるものなのか,CAF自身の存在という物理的存在も必要であるのか,明らかになっていない.そこで本実験では,①がん細胞のみ,②CAFが産生するサイトカインとがん細胞,③CAFが産生するサイトカインとCAFおよびがん細胞の3つの条件において,がん細胞の物理的挙動について検討した.力学場解析の実験では,条件①と②に大きな差は見られなかったが,条件③においてがん細胞に大きなけん引力が発生することがわかった.また形態学的解析からは,条件①のがん細胞を基準として,条件②のがん細胞は糸状仮足とみられる仮足が発達し,条件③のがん細胞では葉状仮足とみられる仮足が発達した.これらの実験の結果は,がん細胞がCAFの存在の有無によって,遊走・浸潤形態を変化させていると理解でき,CAFの存在ががん細胞の転移挙動に変化を与えることを示唆してる.
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