研究課題/領域番号 |
16H04234
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥村 大 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70362283)
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研究分担者 |
田中 展 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70550143)
内田 真 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 講師 (90432624)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 固体力学 / 材料力学 / ゲル / 不安定 / 膨潤 |
研究実績の概要 |
本研究では,ゲル材料に生じる膨潤誘起不安定変形のメカニズム解明と予測による解析基盤構築に取り組んでおり,本年度の研究業績は以下のようにまとめられる.まず,2つのスケーリング指数を用いた拡張モデルについて,多軸負荷下での基本応答を明らかにするとともに(Okumura and Mizutani, Key Engineering Materials(2017)),溶媒の拡散を考慮したより詳細な場合について研究成果をまとめ,論文投稿する準備を進めている.拡張モデルの有限要素解析ソフトへの実装について,サブルーチンUHYPERを用いて行い,基礎的解析によって,急激なひずみ軟化が現れるときには,増分安定性が著しく低下することを確認した.この問題は人工粘性と自動増分を導入することによって,ある程度解消するものの,改善の必要があるといえる(清水ら,計算数理工学論文集(2016)).ゲル試験片の作成及び基礎物性計測では,アクリルアミドハイドロゲルに着目し,調製法を習得するとともに,架橋剤を調整することで異なる力学特性を有するサンプルの作成が可能になり,ノウハウが蓄積された.また,液中浸漬二軸引張試験機の仕様決定及び導入が完成した.単軸引張での動作確認を終えている.デジタル画像相関法を用いたサンプル表面のひずみ分布計測について,空気中での実施を行い,学会でのポスター発表も行った(日本機械学会関西支部講演会,ポスター賞受賞(80件中4件)).なお,膨潤誘起座屈解析のために疑似的な負荷パラメータを用いた座屈固有値解析手法を新しく提案し,検証した(奥村・春日井,日本計算工学会論文集(2016)).この手法によって,初期不整に依存しないモード解析が可能となり,高次のモードを評価できる.また,分岐後の再分岐についても,経路追跡が可能であると考えており,膨潤誘起座屈の強力な解析手法になると期待している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究業績の概要に記載したように,研究課題はおおむね順調に進んでいる.とりわけ,拡張モデルの解析は予想以上に進んでいる.一方,ゲル試験片の作成及び実験について,ゲルの調製には,化学的な専門知識が必要であり,滋賀県立大学の伊田先生にアドバイスをもらいながら,アクリルアミドハイドロゲルに着目し,異なる力学特性を有するサンプルの作成にめどがついた.デジタル画像相関法を用いたひずみ分布計測では,ゲルは非常に大きく変形するが,内田の作成したプログラムによって,計測可能であることがわかった.ただし,空気中での計測であり,水中での実施の場合には,参照点の固定化と水による屈折をどのように扱うかが問題となる.疑似負荷パラメータを用いた座屈固有値解析手法を新しく開発することによって,初期不整に依存しない,系統的な解析が可能となった.このため,これまで解析が難しいと考えられていた軟質基盤上の硬質ゲル膜の解析等も実施の実現性が高まっている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として,拡張モデルについては,より一層の高度化を進めるとともに,解析的なアプローチによって,その力学特性を明らかにする研究を行う.また,有限要素解析ソフトへの実装では,拡散方程式に基づいて,溶媒拡散を考慮した解析に着手し,検証作業を進める.一般に,溶媒拡散は熱の拡散方程式との類似性に着目して解くことが可能であるが,膨潤初期段階において,応力分布の振動問題が確認されており,この問題を避ける形での解析手法の考案を進める.ゲル試験片の実験では,自由膨潤及び単軸・二軸引張試験によって,拡張モデルの必要とする材料パラメータの同定を行い,膨潤誘起ひずみ軟化現象を観察可能な調製の探索を進める.この探索によって,ハイドロゲルがとり得るスケーリング指数の値を把握できる.引張試験は空気中の水中の両方で実施され,拡張モデルとの比較を行う.膨潤は溶媒の拡散によって生じるため,平衡状態に到達するためには時間を要する.時系列毎の変形状態をデジタル画像で保存するとともに,デジタル画像相関法によって解析し,膨潤誘起不安定変形の発生を観察することを試みる.
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