提案手法を実現するには,切削プロセスと機械構造の動剛性の理論モデルに基づいて,高精度かつ実用性の高い安定性解析手法を開発する必要がある.そこで,平成30年度には以下の研究を実施した. 1.安定・高能率プロセス条件の推定技術の開発および包括的な実験検証 前年度までに開発した,機械構造の動剛性と加工プロセスを考慮した動的切削プロセスをモデル化した時間領域シミュレータを拡張し,不等ピッチ・リードエンドミルを考慮したシミュレーションソフトを開発した.さらに,スクエアエンドミルによる任意の2次元的な工具経路を与えた加工に対応可能なシミュレータを開発した.開発技術では,振動を考慮して形成される加工面形状を推定することが可能である.検証実験を通じて開発技術の評価を行い,適切なパラメータを設定することで,プロセスの安定性と加工結果を精度よく推定し得ることを確認した. 2.提案手法の総合的評価 不等ピッチ・リード工具を用いた検証実験を通じて,開発技術により安定・高能率加工条件を精度よく推定し得ることを確認した.さらに,従来の周波数領域で実施される安定限界解析と比較すると,プロセスの非線形性を考慮した時間領域シミュレーションの方が高い推定精度を示すことを確認した.特に,振動振幅が小さい条件においては,プロセスダンピングの影響を考慮して精度が向上することを確認した.一方で,振動振幅が大きい条件では,解析モデルにおける近似が成立せずに推定精度が低下することを確認した.このため,大振幅を近似しないモデル化とこれを実装した高速計算アルゴリズムの開発が今後の課題である.
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