研究課題/領域番号 |
16H04246
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高谷 裕浩 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70243178)
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研究分担者 |
水谷 康弘 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40374152)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 加工計測 / 3次元表面トポグラフィ / 光周波数コム / ファイバレーザー / 散乱分光計測 / 逆散乱問題 / フーリエ変換光学系 / 面計測 |
研究実績の概要 |
本年度は,光周波数コムの散乱分光特性を明らかにし,新規なレーザー逆散乱計測理論を構築するため,光周波数コムの散乱分光特性測定光学系を構成する最重要の要素技術である,可制御型光周波数コム・ファイバレーザーの高精度な制御技術を確立することを目的として,加工表面トポグラフィ空間波長構造による回折光の数値解析および独自に設計・試作した光周波数コム・ファイバレーザーの制御性・安定性向上に関する基礎実験を行い,次のような研究成果[1]~[3]を得た. [1] 光コム共振器中のエルビウムドープファイバー(EDF)に取り付けたピエゾ素子(PZT)と銅板に取り付けたペルチェ素子により,共振器長を変化させることが可能な,可制御型光周波数コム・ファイバレーザーの設計・試作を行った.PZTによる歪みとペルチェ素子による温度制御によって,繰り返し周波数frep(約47.5 MHz)制御のダイナミックレンジを拡大した. [2] PZTとペルチェ素子を用いた新たな制御手法によって,制御型光周波数コム・ファイバレーザーのfrepの時間安定性制御実験を行い,数分から十数分間の長期化に成功した.また,frepの制御が可能となったことにより,周波数変動をmHzオーダまで抑制できることを示した. [3] 超精密切削加工表面微細形状を想定した周期関数モデルによる,多波長を用いたFraunhofer回折光強度分布の数値解析を遂行した.従来の表面微細形状振幅の評価式に基づく新たな測定法を提案し,光源の波長の1/2以下の振幅を最大誤差0.25%で高精度測定できることを示した.さらに,線幅1nmのHe-Neレーザと線幅1.36×10(-12)乗nmの光周波数コムを光源とした場合の測定精度の比較から,光周波数コムの狭い線幅を利用することで測定の信頼性が飛躍的に向上できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では,新たな制御法を取り入れた,可制御型光周波数コム・ファイバレーザーの設計・試作を行い,設計仕様を満足する光周波数コム出力状態の精度,制御性および安定性の観点から,光周波数コムの散乱分光特性測定光学系光源の基本特性を検証することを目標とした.これに対して,繰り返し周波数frepの制御精度および安定性に関しては,要求特性をほぼ満足する結果が得られた.さらに,光コムの周波数を高精度に確定するためには,自己参照法によるオフセット周波数fceoの同定が必要となる.そのため,本年度の研究では計画していなかった光周波数コムの広帯域化も試みている.すなわち,出力光を双方励起型EDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier)で増幅したのち高非線形結晶ファイバ(HNLF)に入射し,非線形効果によるスーパーコンティニウム(SC)光を発生させる手法を用いて,広帯域化制御実験を遂行した. SC光のスペクトル幅は非線形効果の強さに依存し,また,非線形効果は入射光のパワーの増大とともに強くなることを示したうえ, 広帯域スペクトルの低波長側は1350 nm程度まで広がっていることを確認している.しかし,自己参照を実現するためには,1000 nm程度の広帯域化が必要であるため,未だ十分であるとはいえない.一方,新規なレーザー逆散乱法に基づいた3次元表面トポグラフィ計測理論,および光周波数コム散乱分光測定光学系を構築する研究計画については,レーザー逆散乱法に基づいたフーリエ合成の手法を3次元に拡張した計測理論の構築に至っていないこと,および未だ光コムの周波数を高精度に確定することができていないため,光周波数コム散乱光分光測定光学系が設計段階であることから,進捗状況として「おおむね順調に進展している」との評価となった.
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今後の研究の推進方策 |
自己参照法によってオフセット周波数fceoを同定し,レーザー逆散乱法に基づいた3次元表面トポグラフィ計測に必須の光コム周波数を高精度に確定するためには, 1000 nm程度の低波長側までの広帯域化制御が必要である.そのためには,EDFA内の励起光パワーを現在の最大出力パワー300 mWから増大することによって,さらに強い非線形効果を引き起こする必要があると考えられる.そこで,最大出力パワー900 mW程度の励起用半導体レーザを利用することによって,より広いスペクトル幅をもつSC光を発生させる予定である.また,可制御型光周波数コム・ファイバーレーザーの制御性・安定性と計測精度の関係を明確にし,確立したレーザー逆散乱法に基づいたフーリエ合成の手法を,3次元に拡張した計測理論構築を推進する必要がある.光周波数コムシミュレーション解析による光周波数コム散乱分光データと実際の分光測定データを利用した数値解析を適用することによって,3次元表面トポグラフィ計測理論の検証を進める.そのためには,VIPA(Virtually imaged phased array)を利用した高分解能分光光学系を実装した,光周波数コム散乱光分光測定光学系の構築を推進することが必須である.それと同時に高分解能分光データ解析アルゴリズムの構築を進め,分光測定データを蓄積してレーザー逆散乱計測用高分解能分光測定装置の自己キャリブレーション手法を開発する.さらに,測定領域に含まれる基本空間波長の密度および帯域と計測理論の適用範囲などを明らかにするため,実際の加工表面の三次元表面トポグラフィ計測の基礎実験検討を推進する必要がある.
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