研究課題/領域番号 |
16H04258
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
森脇 一郎 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (20157936)
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研究分担者 |
中村 守正 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (00464230)
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (10402984)
曽根 彰 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (20197015)
飯塚 高志 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (60335312)
三浦 奈々子 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 助教 (80735340)
増田 新 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (90252543)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 損傷検知 / スマートギヤ / 導電性インク / 印刷センサ |
研究実績の概要 |
動力伝達機構として使われる歯車や軸などの機械要素の損傷は大きな事故に発展する恐れがあるため,その健全性をモニタリングすることは,非常に重要な課題である.この問題に対して,機械装置が,自らの完全性を高精度に「自覚」し,自身を構成する要素の損傷や劣化を「予見」する能力を持つことになれば,機械装置の可用性を高度に保ちつつ,保全を効率的に行うことが可能となる.そこで本研究では,完全性を自覚できる機械装置の具現化を目指し,機械装置に組み込まれる代表的な機械要素である歯車に,導電性インクを直接印刷することによりセンサ機能を与え,高速回転中に歯車の状態がモニタリングできる「スマートギヤ」を開発することを目的としている. これまでの研究により次の結果を得た. 平成29年度は前年度に開発した4軸レーザー印刷機を利用して,樹脂製歯車表面上に吹き付けた導電性インクを焼結することでセンサとなる回路の形成条件を明らかにした.はじめに,PA66製の歯車の表面性状を改善するため,ポリイミドによるコーティングを試みた.ポリイミド噴霧後のスピンコートの条件,イミド結合を促す加熱条件を明らかにした後,密着性を確認する歯車運転試験を実施した.次に,歯車表面上に印刷するためのき裂検知センサの設計を行い,これまでに明らかにした条件によりセンサの印刷を行った.そしてセンサを印刷した樹脂歯車の運転試験を実施することによって印刷したセンサの歯車への密着性を調べる実験を行った.さらに,センサが取得した情報を送信するために必要となるアンテナの印刷とその特性評価を行った.また,鉄板上での導電性インクの印刷を安定させるため,厚いポリイミド層を形成するための技術開発及び小型無線通信モジュールを鉄板上に表面実装する技術の開発も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では平成29年度には,1 小型無線通信モジュールを組み込んだ計測システムの実装,2 歯車運転試験における無線状態測定によるシステム評価,を挙げていた.これらを進めるため,まず樹脂歯車にき裂検知用センサを印刷することから開始した.樹脂歯車として研究室で多くの耐久試験の実績があるPOM(ポリアセタール)を選択し,き裂検知センサを設計したが,POMの融点の問題で,適切にセンサを印刷することができなかった.そこで,POMからPA66へと材料を変更し,同じセンサの印刷を試みたが,POMの場合と同様に導電性を発揮する回路の印刷ができなかった.SEMを用いて観察したところ,樹脂歯車の成形時に用いる金型の切削痕の影響で断線が発生することがわかり,表面性状を改善するためのコーティング技術の開発を行った.PA66歯車の融点以下でコーティング材としてのポリイミド膜を形成する技術を開発した後,き裂検知センサのPA66歯車への印刷に成功した.しかしながら,この印刷技術に時間を要したことから,小型無線通信モジュールの表面実装技術の開発が当初の計画よりも遅くなった.しかしながら,歯車表面上へのモジュール実装はできていないが,鉄板上にポリイミド層を形成し,その上に無線通信モジュールの表面実装を行い,可変抵抗器をセンサとみなしてその情報を無線でPCへと送信する実験は実施できたため,実装する対象を樹脂もしくは金属歯車にすることで当初の目標に到達する.また樹脂歯車の運転試験を行うことで,開発した無線通信モジュールを利用した計測システムの評価を行う予定であったが,これは開発の遅れから実施できなかった.それに代わって,き裂検知センサからの情報を送信するためのアンテナを設計し,その印刷を行った.また,印刷されたアンテナの得評価も行い,適切な共振周波数を有するアンテナを印刷するための基礎技術を開発した.
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今後の研究の推進方策 |
申請者らはこれまで4軸数値制御工作機械をレーザー印刷機に改造し,複雑な表面形状を有する歯車表面への導電性インク焼結を可能にした.そして,PA66歯車を対象として導電性インクを印刷するための適切な条件を明らかにし,試みとしてき裂検知センサの印刷を行った.このセンサを有する「スマートギヤ」で運転試験を行い,センサの密着性を確認した. 今年度は,まず予備実験として開発した導電性インクによるき裂検知センサの電気的特性,すなわち,運転試験中の抵抗変化の計測を試みる.一定時間間隔で運転を停止し,その都度センサの抵抗を測定し,かみ合い回数と抵抗変化の関係を調査する.次に高速回転する歯車に印刷したき裂検知センサの情報をワイヤレスで取り出す試みとして,無線通信モジュール付きの小型マイコンを用いたシステムを歯車もしくはその軸に表面実装する方法を検討する.このシステムを用いてセンサを印刷した歯車の運転試験中のセンサからの情報を監視することで,かみ合い回数の増加に伴うき裂検知センサの抵抗変化を吟味し,損傷の予兆を捉えるための特徴量を明確にする.この段階において損傷の予兆に関連する特徴量が明確に捉えられない場合は,センサの形状変更を検討する.例えば,き裂発生前の兆候を捉えるためには歪みゲージを模した形状のセンサを引張り応力がかかる箇所にのみ印刷する方法,また発生したき裂の進展を捉えるためには幅の広い回路線を印刷する方法などを試す. 続いて,小型無線通信モジュールに替えてSuica等に代表されるRFIDタグに用いられる高周波回路を印刷し,電源を必要としない無線通信技術の導入によって歯車の状態計測システムの軽量・小型化を行う.ここではその基礎的検討のため,レクテナ機能を備えた高周波回路の印刷及びその特性評価をベクトルネットワークアナライザ,スペクトラムアナライザを用いて行う.
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