先行課題では,高温高圧水キャビテーションタンネル実験において,主流温度を上昇させる際にレイノルズ数一定となるように主流速度を減速させることにより,寸法効果をある程度排除できたが,完全には除去できてはいなかった.寸法効果は,作動流体中の析出した溶存空気やゴミ,物体表面の僅かな凹み等が核となり,流動の局所的せん断や引張り等による力学的刺激によりキャビティ気泡が発泡する頻度が,レイノルズ数の上昇またはキャビテーション核の増加に伴い増えることによるものと考えられているが,昇温運転中の溶存気体量は計測できておらず,さらに主流中のキャビテーション核数も計測できていないため,完全には寸法効果を消し去れていなかった.そこで本研究課題では,作動流体中の溶存気体量のその場計測と制御を行った.タンネルの循環ポンプ部に蛍光式溶存酸素系を追加し,溶存気体の1つの指標として溶存酸素量を測定した.溶存酸素量のその場計測から,同じキャビティ領域を有する流れ場でも,キャビティの非定常性が強い方が溶存酸素の析出量が多いことが示された.これは,非定常キャビテーション流れ自身の局所的な流速および圧力の変動が溶存気体の析出を促進していることを示唆しており,申請者の他の研究課題(挑戦的研究)における非定常キャビテーションの数値予測精度向上の方向性に根拠を与えるものであった.また,溶存酸素量のその場計測と同期して,溶存酸素濃度を一定に制御するための脱気システムを導入した.これにより,主流温度の上昇に伴い上昇する溶存酸素濃度を一定に制御した.溶存酸素濃度が一定であれば同じ流れ場で析出する溶存気体とそれによるキャビティ核が一定であると仮定すると,寸法効果を十分に排除して熱力学的効果の発現を比較することができたと言える.
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