研究課題/領域番号 |
16H04268
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
後藤 晋 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40321616)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 乱流 / 数値シミュレーション / 秩序構造 / 4次元解析 / 渦 |
研究実績の概要 |
初年度である平成28年度は、計画通りに、壁面近傍の乱流(壁乱流)の数値シミュレーションに着手した。具体的には、「平行平板間乱流」、「境界層乱流」、および、「任意形状のなめらかな容器内の乱流」の数値シミュレーションプログラムを新規に開発し、その実行が可能となった。レイノルズ数が十分に高い場合には、これらの壁乱流中にはさまざまな大きさの渦が階層をなして存在する。このような渦の階層構造を同定し、その動力学(したがって生成機構)を明らかにするとともに、「対数則」に代表される壁乱流の統計に与える影響を解明することを目標にして、数値シミュレーション研究を順調に進めている。 ところで、平成28年度は、当初は計画になかった室内実験研究から壁乱流の維持機構に関する重要な知見が得られた。具体的には、「自転軸が歳差運動をする回転容器」の内部に生成される乱流の維持機構を室内実験により調べた結果、容器中央部に存在する乱流の小規模渦構造は壁面近傍で生成された渦の単純な移流によるものではなく、容器の大きさ程度の広がりをもつ大規模渦からのエネルギーカスケードにより生成、維持されることが明らかとなった。この室内実験では、乱流の維持機構の解明のために、作動流体に微量の界面活性剤を添加した場合の乱流変調の様子を調べた。こうして得られた結論は他の壁乱流の維持機構の解明に向けた重要な知見を与える。さらに、界面活性剤を使った乱流維持機構の解明は本研究の数値シミュレーション研究においても有効な研究手法となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、複数の異なる境界条件下の乱流の数値シミュレーションプログラムを新たに開発できたことは、今後の研究を進める上で重要である。平成28年度当初の研究実施計画では、「無限に広がった平行平板間に維持される乱流」に対する詳細な解析を実施する計画であったが、実際には、この「平行平板間乱流」に加えて、「境界層乱流」および「閉じた(任意形状の)容器内に維持される乱流」の数値シミュレーションのプログラムの開発をほぼ終えたことは特筆に値する。 また、上述のように、当初の計画にはなかった室内実験からの示唆が得られたことも、今後の計画の遂行に向けたよい材料である。 一方で、発達した乱流中の階層構造を捉えるための手法開発に関しては、平成28年度中にはあまり進展が得られなかった。これは、新規に開発した上述の3つの数値シミュレーションプログラムは、いずれもスーパーコンピュータ向けの最適化(チューニング)が不完全であるため、(本研究の主眼である乱流階層構造の同定や解析が可能となるような)十分に発達した高レイノルズ数の乱流の数値シミュレーションの実行が今のところ不可能であるためである。
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今後の研究の推進方策 |
上述の進捗状況を踏まえ、平成29年度はまず各プログラムの最適化を進める。このためには、本研究で利用するスーパーコンピュータが提供するプロファイラ等を用いるとともに、プログラム相談等も積極的に利用して、短期間で十分な性能をもつプログラムを完成させる。 次に、こうして最適化されたプログラムを用いて、高レイノルズ数の乱流の数値シミュレーションを実行する。これを実行するための十分な計算機環境は平成29年度以降も確保できる見込である。高レイノルズ数乱流の数値シミュレーションの実行が可能となれば、我々がこれまでに「壁なし乱流」に対して独自に開発してきた「乱流中の階層構造の同定方法」をこれらの壁面近傍の乱流へと適用する。このときとくに留意しなければならないのは、数値シミュレーションデータの巨大化に伴う後処理の困難さの克服である。本研究では、数値シミュレーションの実行と同時にデータを縮約することで取り扱いが容易なデータのみを出力するとともに、出力データを効率よく解析(とくに可視化解析)するプログラムも独自に開発する計画である。
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