研究課題/領域番号 |
16H04270
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
高比良 裕之 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80206870)
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研究分担者 |
小笠原 紀行 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00552184)
藤川 重雄 北海道大学, -, 名誉教授 (70111937)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 流体工学 / キャビテーション初生 / 気泡 / 相変化 / 準安定状態 / 集束超音波 / 後方散乱 |
研究実績の概要 |
集束超音波の焦点近傍に生成したレーザ誘起気泡に,圧力振幅をコントロールした集束超音波を照射し,集束超音波がレーザ誘起気泡の界面で後方散乱する際の,キャビテーションの初生とその後のキャビテーションクラウドの成長を,高速度ビデオカメラを用いて可視化するとともに,光ファイバプローブハイドロフォンにより圧力計測した.また,実験に対応する数値解析を行った.その結果,以下の知見が得られた.(1) キャビテーションクラウド先端のキャビテーション初生の限界位置での圧力測定に成功した.この圧力はキャビテーション初生圧力と判断され,その値は約-24MPaであった.(2) 集束超音波の後方散乱に起因するレーザ誘起気泡周囲の圧力分布を計測した結果,気泡界面から約0.3λ(λは超音波の波長)の位置で最小圧力(最大負圧)を取り,そこで後方散乱による最初のキャビテーションが初生する.また,集束超音波の伝播軸上の液体圧力は,約0.5λごとに極小値を取る.(3) 種々の濃度のグリセンリン水溶液中に生成したレーザ誘起気泡界面での後方散乱によるキャビテーション初生を観測した.その結果,水溶液の粘度の増加に伴い,クラウドの成長が抑制されること,クラウドの崩壊周期が延びることが示された.(4) レーザ誘起気泡を想定した球状の気泡の近傍(超音波の伝播軸上)に微小な気泡を置いて,集束超音波の後方散乱をGhost Fluid法で計算した結果,微小気泡の横側に強い負圧領域が形成されることが示された.この強い負圧がキャビテーションクラウドが層状に発達していく要因となる. 非平衡・蒸発ならびに凝縮を考慮した球形気泡の成長モデルを用いて,非平衡相変化が,気泡の成長に及ぼす影響を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速度ビデオ撮影と圧力計測を同時に行うことにより,キャビテーションが初生する限界位置(キャビテーションクラウドの先端)での圧力の定量化に成功した.この圧力はキャビテーション初生圧力と判断されるため,このことは,キャビテーション初生圧力の直接計測が可能となったことを示している.また,集束超音波の後方散乱によるレーザ誘起気泡周囲の圧力分布を計測できた.ここで得られた圧力分布は,キャビテーション初生ならびにクラウド形成の機構に関し,重要な知見を与える.さらに,グリセリン水溶液を用いた実験方法が確立できた.数値解析においては,レーザ誘起気泡を想定した球状の気泡の近傍(超音波の伝播軸上)に微小な気泡を置いて,集束超音波の散乱をGhost Fluid法で計算した結果,微小気泡の横側に強い負圧領域が形成されることが示された.この強い負圧がキャビテーションクラウドが層状に発達していく要因となり,実験結果と符合することが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験と同様に,蒸留水中での集束超音波のレーザ誘起気泡界面での後方散乱に起因するキャビテーション初生圧力の計測とキャビテーションクラウドの成長の可視化を継続する.クラウド先端位置での液体圧力を計測することにより,キャビテーション初生圧力の算出に成功したので,今後は,種々の溶存気体濃度におけるキャビテーション初生圧力を計測し,初生圧力と溶存気体濃度との関係を明らかにする.また,周囲温度を変化させた実験およびグリセリン水溶液を用いた実験により,キャビテーション初生圧力の温度ならびに粘性に対する依存性についても検討する.さらに,キャビテーション初生圧力における均質核生成に必要なエネルギー障壁を用いて,スピノーダル圧力の算出を試みる. また,Ghost Fluid法を用いて,気泡界面での集束超音波の後方散乱による圧力場を算出する.これまでの数値解析により,レーザ誘起気泡を想定した球状の気泡の近傍(超音波の伝播軸上)に微小な気泡を置いて,それらによる集束超音波の後方散乱を計算した結果,微小気泡の横側に強い負圧領域が形成されることが明らかとなった.このことから,キャビテーションクラウドが層状になる形成される理由が示唆された.本年度は,より実験で観測されたキャビテーションクラウドに近い形状の気泡クラウドによる集束超音波の後方散乱を数値計算し,キャビテーションクラウドの生成機構を明らかにする. さらに,非平衡蒸発・凝縮を考慮して得られた気液境界条件を用いて,気泡核成長をシミュレートする.その際,上述の実験により算出された臨界半径ならびに圧力履歴を用いて,気泡核の成長に及ぼす非平衡相変化および粘性の影響を調査する.また,非平衡相変化ならびに気泡の体積振動と並進運動を考慮した球形気泡の運動方程式を用いて,流れ場中での気泡核の成長をシミュレートする.
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