研究課題/領域番号 |
16H04279
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
井上 修平 広島大学, 工学研究科, 准教授 (60379899)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 仕事関数 / イオン化ポテンシャル |
研究実績の概要 |
フォトクロミックナノ粒子からなる薄膜が高性能な充電池になり得るとの報告があった。このときの材料はスズとマグネシウムからなる金属酸化物であったがこれまでの研究から亜鉛・シリコン系でも同様の光誘起の黒化現象が観測された。XRDによる構造解析とDFT計算の結果から光による充電が可能であるモデルが提案されたがそのモデルの根幹部分を実験的に検証した報告はない。これは新規な技術の開発につながる重要な事項であるため本研究ではこの原理を実験的に検証することを目的としている。モデルでは結晶の酸素欠陥によりイオン化ポテンシャルが大きく変化するものとほとんど変化しないものがありこれらの材料が接合された界面では酸素欠陥の有無により真空準位からの大きさの大小関係が逆転し、ホールと電子の分離が起こり安定的にエネルギーが貯蓄されることになる。しかしこれはDFT計算の結果であり実験的な検証をすることが必要である。本年度では環境下でも材料のイオン化ポテンシャルを計測することのできる光電子収量装置を開発し基地の材料を測定することで装置の検証を行った。金の薄膜を基板上にスパッタし測定試料とした。本研究で測定したテスト試料の仕事関数は5.48 eVとなる。既往の報告によると金のバルク固体の仕事関数は真空中での測定であるが(1 0 0)面での値が5.47 eV、(1 1 0)面が5.37 eV、そして(1 1 1)面が5.31 eVである。大気中での値は金属の場合でも多少変化することが報告されているが既報の値に近く本装置による測定は問題無いものと考えられる。既往の研究より半導体膜に対する光電流は金属の場合に比べてかなり小さくなることが分かっており装置の改良が必要であると考えられる。光ファイバーを用いているが結合効率が高いとは言えずスリットによる導入・出力そしてレンズによる集光に変更することが良いと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置の開発はほぼ終わり、昨年度に修正を迫られたガス置換に関する装置開発も終了している。基地の材料を用いて確認したところ文献値とほぼ同等の値が確認できており装置の開発はほぼ完了していると考えて良い。半導体材料の場合金属に比べ収率が低いことが報告されていることから現状のままでは測定が難しいがこれは想定の範囲内である。これまでは装置の開発を優先し、取り回しの問題から光ファイバーを用いていた。今年度の前半で光学系の再設定を行い、いよいよ本来の目的であった酸化物の検証に入る。酸素欠陥の調節に関しても並行して行っており、XPSやラザフォード後方散乱装置などを用いて酸素の量を定量的に確認できているため結晶中の酸素欠陥を調節し、イオン化ポテンシャルを計測することに何の技術的課題も残されていない。
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今後の研究の推進方策 |
上記で述べたようにファイバーでの取り回しでは光の結合効率が低いこと、また実際に必要とする波長領域が紫外でありファイバーでの伝送効率が低いことから得られる単色光の強度が1/50程度まで減衰している。このままでは光電子の収率が低いとされる散布に対応することは難しいため光ファーバーではなくレンズによる直接導入とサンプルへの直接照射に変更する。このために装置の組み替えが必要であるが今年度の前半で完了させる。この作業と並行して酸素欠陥を調節した試料を作成しておき酸素欠陥が与える影響を明らかにする。また既報のスズ・マグネシウムに関してもフォトクロミック現象を示すサンプルの合成に成功していることからこちらに関しても同様の計測を行い類似な現象なのか確認する計画である。
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