本研究では、カタツムリの吸着移動に作用する進行波と粘液の原理を厳密に解明し、凹凸コンクリート壁にも吸着可能な移動体の基盤技術の構築を目指すこととした。平成28年度では、カタツムリの調査結果から得られた生物学的知見に基づくバイオミメティックアプローチを以下に示す3つの観点から行った。すなわち、1)カタツムリの吸着移動原理や粘液作用の解明、2)人工粘液の設計法と精製法の確立、および3)進行波生成用アクチュエータの設計法の確立である。まず、吸着移動原理と粘液作用の解明について、カタツムリは腹足に生じるWave(収縮波)を尾部から頭部に進行させる間にせん断応力を減衰させ、Interwave(波間)では吸着力を生成させること、またRim(外周部)は粘液を保持しつつ吸着力も生成させながら連続的に移動する役割を担うことなどが明らかとなった。また、吸着力を補助する人工粘液として、分子ネットワークの構築が可能なナノシリカとシリコンオイルの混成流体を導入した。その精製過程において、降伏せん断応力と速度による減衰性・弾性係数を決定づける重要なパラメータが存在することが明らかとなった。さらに、進行波生成用アクチュエータの設計において、進行波の波形パラメータ(振幅・波長・縦波・横波)と吸着特性との関係を剛体版で構成された試作機を用いて調査し、上述の人工粘液を用いた壁面・天井を移動するための設計方法を確立した。これらの知見をもとに、凹凸コンクリート壁面での吸着移動の実現と操作性向上の検討を進める予定である。
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