本研究では、カタツムリの吸着移動に作用する進行波と粘液の原理を厳密に解明し、凹凸コンクリートの壁にも吸着可能な移動体の基盤技術の構築を目指すものである。平成29年度では、前年度の研究で得られた人工粘液に関する知見をもとに、まず、凹凸壁面でも吸着面に粘液を保持しやすくするための柔軟な腹足構造を開発し、その速度制御方法を構築した。これは、内部を空気圧で加圧すると正弦波状に変形する位相の異なるチューブを3本用い、加圧するタイミングを変えることによりカタツムリと類似の進行波を生成するものである。試作機は大きさ350×70×10mm、質量78gを有し、速さ1.8mm/sで推進する能力を発揮でき、進行波の切換速度の調整により、推進速度を制御できることを確認した。次に、前述のチューブ装置を2セットだけ組み合わせて移動体を構成し、各進行波の推進する速さを変化させることにより、旋回動作や方向操舵動作を推進できることを確認した。さらに、人工粘液の有効性を検証するため、前年度の剛体構造の装置を用いて壁面の推進実験を行った。その移動効率向上のためには、推進する表面形状に応じて適切な異方性を発揮できる繊毛ファイバーが有効なことが明らかになった。当該構造は、光学顕微鏡を用いた申請者らの観察において、カタツムリ自体にも類似の繊毛構造が存在することを発見しており、移動ロボット分野に新たな知見ともたらすものと期待できる。
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