本研究では、カタツムリの吸着移動に作用する進行波と粘液の原理を厳密に解明し、凹凸コンクリートの壁にも吸着可能な移動体の基盤技術の構築を目指すものである。平成30年度では、前年度までに得られた人工粘液の知見をもとに、まず、進行波を生成する屋外コンクリート環境でも移動可能な移動体を開発し、速度制御方法および方向操舵制御方法を検討した。移動体は、偏平チューブで構成された位相の異なる3相のシートアクチュータから成り、空気圧の加圧のタイミングを変えることにより、カタツムリと類似の進行波を生成するものである。各位相間のオーバーラップ率を調整することにより速度制御が可能となること、および複数のシートを並列に配置し、それらの速度差を調整することにで旋回半径を制御可能なことを確認した。次に、屋外環境にも対応するために、人工粘液を塗布する機能および回収してろ過する機能を付加した。実験の結果、これらの機能は屋外環境で一定の効果を発揮できることを確認した。さらに、当該人工粘液の吐出し装置をシートアクチュエータに実装し、コンクリート面での吸着移動の実験を行った。実験より、70度程度の勾配の急斜面においては、吸着しながら移動可能なことを確認し、本研究で提案した手法の有効性を検証することができた。今後は、屋外の壁面や天井面でも安定な吸着移動を実現するためのシートの素材の改良、および凹凸面への適応機能を検討する予定である。
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