研究課題/領域番号 |
16H04330
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川山 巌 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 准教授 (10332264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 窒化ガリウム / 自発分極 |
研究実績の概要 |
フェムト秒レーザーパルスにより半導体中に発生した光励起キャリアが拡散や内部電場によって流れることにより過渡的な電流が発生する。これまでc 面GaN において欠陥や不純物による準位に起因するイエロールミネッセンスの強度が強いところでは、放射THz 波の強度が大きくなることをすでに見出している。平成28年度の研究では自発分極が面内方向(c軸方向)に存在するm面 GaN をレーザーテラヘルツ放射顕微鏡(LTEM)により観察した。自発分極とTHz波の偏光方向が一致したときに、THz波の強度が増強されると考えられ、試料を面内に回転した場合は、THz波放射強度の回転角依存性が観測されるはずである。 実際に、チタンサファイアレーザーの二倍波(355nm) により励起された m 面GaN のLTEM 像を計測し、その際、試料を面内に回転させ、LTEM像の回転角依存性を測定した。その結果試料180 度回転させるとTHz波の位相が反転していることがわかった。また、90 度、270 度回転した場合にはTHz 波の強度が小さくなり極小値となった。これらの結果より、c 軸と平行な自発分極により放射THz 波が増強されていることが確認された。また、m面GaN試料表面において、一部位相が反転している領域が確認された。これは結晶成長中に不整合により混入する分極反転ドメインからの放射であるとが考えられる。このような分極反転領域はデバイス作製において排除すべき領域であるが、従来よく用いられているフォトルミネセンス測定からでは検出困難である。この様に、本研究によってTHz放射を用いた測定が新しい測定手法として有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、1) 面方位の異なるGaNからのTHz放射計測を行い、表面分極や自発分極の影響を検証、および2)ポンプ・プローブLTEM/LTESシステムの構築、の2つの実験を行う予定であった。項目1)に関しては、当初予定しいたm面GaNの面内の分極構造を精度良く計測することに成功し、さらに当初考えていなかった分極反転領域を明瞭に観察し、また面内だけでなく面に垂直な分極成分を分離することにも成功した。この様に、項目1)に関しては予定以上の進展を見せ、これに関する論文も出版された(APL Photonics, Vol. 2, 041304 (2017) )。 また、実験2)に関しては、平成28年度は計測システムの構築を行い、29年度より本格的に計測を行う予定であり、これもほぼ予定通りに進んでいる。したがって、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたようにTHz波の不純物・欠陥による増強は、アクセプタ準位への電子のトラップにより、表面ポテンシャルが増加したためである考えている。このことを検証するため、超短パルスレーザーの基準波以外に2倍高調波(SHG)および3倍高調波(THG)を利用したポンプ・プローブLTEM/LTESを構築し、不純物・欠陥準位を介した遷移プロセスにおいて、THz放射強度がどのように変化するか、サブピコ秒オーダーの時間分解能で検証する。また、ケルビンプローブフォース顕微鏡との比較による表面ポテンシャルとの相関の定量的検証を行う。ケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)では、カンチレバーの仕事関数との差という形で、試料の局所的な表面ポテンシャルを計測することが可能である。LTEM像とKFM像とを比較することにより、表面とポテンシャルとLTEM信号との定量的な比較を行う。さらに、クライオスタットをLTEM/LTESに組み込み、テラヘルツ放射強度の温度変化を測定する。温度を変化させることにより、GaNの不純物・欠陥準位および表面準位の平衡状態での占有確率が変化する。そのため、PL測定との比較などにより、欠陥の種類および濃度とTHz放射強度に関するより定量的な検証が可能である。
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