研究課題/領域番号 |
16H04335
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山田 陽一 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00251033)
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研究分担者 |
三宅 秀人 三重大学, 地域イノベーション学研究科, 教授 (70209881)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 励起子分子 / 非弾性散乱 / 高温物性 / 非局在化 / 2光子共鳴 / 混晶半導体 / 窒化物半導体 / 励起子工学 |
研究実績の概要 |
AlGaN系量子井戸構造における励起子分子の動的挙動を解明するために、励起子分子結合エネルギー136meVを有するAl0.6Ga0.4N/Al0.7Ga0.3N量子井戸構造(混晶井戸層幅2nm、混晶障壁層幅7nm)を対象として、極低温から室温までの温度領域(4-300K)に加えて、室温よりも高温領域(300-750K)における発光および発光励起分光測定を行った。励起子分子の輻射再結合過程による発光線ならびに発光励起スペクトルにおける励起子分子の2光子共鳴線は750Kの高温領域まで明瞭に観測され、励起子分子が750Kまで安定に存在することを明らかにした。また、室温よりも高温領域では、温度上昇とともに励起子分子の発光線の低エネルギー側に複数の発光線が顕在化することを明らかにした。それらの発光線の起源を明らかにするために発光励起分光を行ったところ、励起子分子の発光線と同様に、励起子共鳴に加えて励起子分子の2光子共鳴が明瞭に観測された。励起子および励起子分子の発光線とのエネルギー間隔を考慮すると、それらの発光線は、励起子と励起子分子との間の非弾性散乱による発光線、励起子分子と励起子分子との間の非弾性散乱による発光線であることを明らかにした。それらの非弾性散乱に起因した発光線は、室温以上の高温領域において温度上昇とともに徐々に顕在化していくことから、温度上昇に伴う熱エネルギー増大の影響を受けて励起子と励起子分子が局在状態から非局在状態へとその占有状態が変化することを反映した現象であると考えられる。AlGaN混晶薄膜では2つの励起子分子間の非弾性散乱に伴う発光線は低温から室温までの温度領域において顕在化したが、量子井戸構造では量子閉じ込め効果による結合エネルギーの増大や量子サイズ揺らぎによる局在エネルギーの増大を反映して、室温以上の高温領域において顕在化したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AlGaN系量子井戸構造に関して、低温から室温までの温度領域に加えて、室温から高温領域における発光および発光励起分光測定を行うことにより、高温領域における励起子分子の動的挙動の解明に成功した。励起子分子は750Kまで安定に存在すること、室温以上の高温領域では温度上昇とともに励起子と励起子分子との間の非弾性散乱、2つの励起子分子間の非弾性散乱に起因した発光線が現れることを明らかにし、年度初めに立案した基礎物性解明に関する研究実施計画はほぼ達成されたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はこれまでの基礎物性評価結果をベースにして、AlGaN系量子井戸構造における高密度励起子系の光機能性の解明を目指す。具体的には、光ポンピングによりAlGaN系量子井戸構造からの深紫外誘導放出光の測定に取り組む。誘導放出光を観測することにより、誘導放出に対する励起キャリア密度のしきい値を導出する。励起子分子の輻射再結合過程や励起子分子間の非弾性散乱過程による誘導放出が実現できると、誘導放出に対する励起キャリア密度のしきい値は大幅に低減することが期待される。誘導放出に対する励起キャリア密度のしきい値と量子閉じ込め効果との相関、さらには局在効果との相関を解明し、励起子分子が関与した輻射再結合による誘導放出に対する構造パラメータの最適化を目指す。
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