レーザー活性層に量子ドットを導入することにより、信頼性の高いII-VI族半導体レーザーを実現することを目的として研究を行った。電流注入されたキャリアは量子ドットに捕獲されるため、活性層に内在する点欠陥と空間的に分離される効果が期待できる。これにより、従来から量子井戸レーザーの高信頼性化を阻害してきたキャリアと点欠陥の光反応による欠陥自己増殖が、量子ドットの導入により抑制されるかを検証した。まず活性層にCdSe量子ドット層を導入した利得ガイド型のレーザー素子(ストライプ幅10μm、長さ500μm)を作製し、パルス発振することを確認した。2.5原子層分(0.75nm)のCdSe層を供給して量子ドットを形成し、1層(発振波長510nm)および2層の量子ドット活性層(発振波長530nm)をもつ素子の比較を行った。しきい電流密度は2.3kA/cm^2であり、量子ドット層の総数には顕著な依存性はなかった。一方、同じ条件で作製したBeZnCdSe量子井戸層(厚み7nm)を活性層とする素子のしきい電流密度は1.4kA/cm^2、発振波長540nmであり、量子ドット素子と比較して低い電流密度の値を示した。今後の課題として、量子ドットのさらなる多層化により量子ドット素子のしきい電流密度が下がるかどうか確認する必要がある。素子の信頼性に関しては、定電流条件で比較を行った。100A/cm^2程度の比較的低電流密度のLEDモード動作において、量子井戸型と比較すると素子の劣化が抑制されており、量子ドットの有効性を確認した。一方、レーザー発振に必要な1kA/cm^2以上の大電流動作条件では、両者に顕著な違いがみられず、両者ともに急速に劣化することを確認された。今後、低電流領域での量子ドットの信頼性が高い状態を、いかに高電流領域で維持するかが課題である。
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