研究課題/領域番号 |
16H04338
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
竹下 直 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 主任研究員 (60292760)
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研究分担者 |
黒木 和彦 大阪大学, 理学研究科, 教授 (10242091)
伊豫 彰 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 上級主任研究員 (50356523)
山本 文子 芝浦工業大学, 理工学研究科, 教授 (50398898)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導 / 圧力 / 銅酸化物 |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体に対して、そのTcの圧力依存性を物質横断的、さらに同じ系でもCuO2面の数の違い、ドーピング量の違いなどで細かく観察することでTc向上やその他の超伝導特性の改善につながる学理を得ることができると考え、これを進めている。3年計画の最初の年度として、水銀系銅酸化物、Cu,C系銅酸化物、頂点フッ素系銅酸化物に対して注目し、これらのTcの測定を行った。測定はキュービックアンビル型高圧力装置を用いて、電気抵抗率測定を行うことでTcを決定した。 2枚、3枚のものに対してこれまでに実験を行ってきているHg系においては、1枚のものについて測定を行った。これにより1~5層までの最適ドープ試料に関する結果をそろえることができた。 Cu,C系に関しては、単相の良い試料を得ることがなかなか難しいが、今後も実験を進めていきたい。現在のところ1枚のもの、最適ドープではない各枚数の試料などで実験が完了していない。 頂点フッ素系に関する実験は今年度で最も進行した系である。集中的に実験を行い、1~4層までの試料において、アンダードープ、最適ドープの試料に対する測定を終えることができた。これらの結果について、学会発表により成果発表を行った。また1枚のものではTcの著しい上昇がみられたがこれに関しては理論的な側面からの考察が行われ、結果の解釈に成功したと考えている。 これら実験に用いた試料は山本、伊豫らによって合成された。一部の試料は、実験の補助として雇用した茨城工業高専および木更津工業高専の学生により合成され、測定も含めて評価を行い、日本物理学会での成果発表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料の合成が難しい。単純に品質の良い試料を作るだけならばまだよいが、あえて良い合成条件を外してドーピング量をコントロールした試料を作る必要があったり、また良い試料に対して、後処理でドーピング量をコントロールしたり、その際に試料が損傷してしまうことがあるなど、実験の前提となる良質な試料をさまざまの系、ドーピング量、CuO2面の枚数、といったバリエーションをつけて用意すること自体が難しい。しかしながら、伊豫、山本の奮闘により、今年度は特に頂点フッ素系において多くの進展がもたらされた。4枚のアンダードープの試料ではこれまでなかったような、圧力下でTcが減少に転ずる様子が見られた。この解釈に関しては現在検討中である。頂点フッ素系ではアンダードープの試料が基本的に得られやすいが、アンダードープの度合いによっても結果が変化するのかを見極める必要がありそうである。同様に、より高い圧力下では減少に転ずるかどうかを見極める必要性も出てきた。これに関しては、来年度より美藤らの協力を得ることで進展させていく。 理論的な側面からの考察は今のところ揃えられる実験結果が十分ではなく、今後、実験の進展に沿っていろいろな結果を期待できると考えている。しかしながら頂点フッ素系の1枚の試料に関しては、今年度においても理論からの詳細な検討を行った。頂点フッ素の1枚の試料は、他の水銀系などに対して著しく低いTcを持っていることが特徴的であるが、加圧によって20K以上の大きなTc上昇が観察された。これについて考察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まだやり残した部分の多いCu,C系に関する同様の実験を重点的に推し進めていく。試料の作成に関しては伊豫はCu,C系に加えて、頂点フッ素系のオーバードープ試料作製の可否についても検討する。山本はHg系でCuO2面が4枚以上のの試料のオーバードープ試料に対して試料合成を挑む。キャリア量の差によって、同じ系、同じCuO2面の試料でも圧力に対するTcの応答が異なることが徐々に明らかになっており、このバリエーションをさらに増やすことによって、圧力の果たす役割がより明らかになるものと思われる。 これらの試料に対して竹下がキュービックアンビル型高圧装置を用いて電気抵抗率測定によりTcを決定し超伝導圧力相図を構築していく。この際、場合によっては電気抵抗率測定だけではなく磁化率測定や、あるいは美藤がさらに高い圧力領域における実験をMPMS中ダイヤモンドアンビルセルによるマイスナー効果の測定を行い、より広い圧力領域、試料バリエーションによる結果を導出する。 これらによって得られた結果について、黒木が理論的な立場より理解をすすめる。可能であればその成果から、さらに高いTcを持つと予測される新物質の提案を行う。そして伊豫、山本はその新物質の合成の可能性に関する検討を行う。 得られた知見に関しては、速やかに論文、学会発表等での成果発信を心がける。頂点フッ素に関する結果は29年度中にほぼ出そろうと期待している。これを論文化し成果として発表するよう進めていく。
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