研究課題/領域番号 |
16H04347
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
葛原 正明 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (20377469)
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研究分担者 |
ASUBAR JOEL 福井大学, テニュアトラック推進本部, 講師 (10574220)
山本 あき勇 福井大学, 産学官連携本部, 客員教授 (90210517)
只友 一行 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (10379927)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パワーデバイス / 窒化物半導体 / 基板 / 耐圧 / 絶縁破壊 / 高電子移動度トランジスタ |
研究実績の概要 |
窒化物半導体パワーデバイスとして最も開発の進んでいる高電子移動度トランジスタ(HEMT)を転位密度が低い半絶縁性GaN基板上に試作し、そのドレイン耐圧をゲート-ドレイン電極間の距離で除した実効破壊電界を測定した。半絶縁性GaN基板には市販エピメーカーに依頼して成長したFeドープの高抵抗GaN基板を使用した。測定においては、高電圧印加時にメサエッチングされた周辺部からの漏れ電流の影響を抑えるために、デバイスの真性部分(電流の流れる部分)以外のエピタキシャル層は全て半絶縁性GaN基板に到達するまでICPドライエッチングを用いて除去した。この時のメサ深さは1400nmであった。 試作したHEMT素子のゲート長は3um、ソース-ゲート電極間距離も3umとし、ゲートードレイン間距離Lgdを4umから50umの範囲で変化させた。各トランジスタについて、ゲートにしきい値電圧以下の電圧を掛けてドレイン電流を遮断したのち、ドレイン電圧を上昇させ、デバイスが破壊または流れる電流が1mA/mm以上になったときのドレイン電圧を破壊電圧とした。こうして求めた破壊電圧をLgdの関数としてプロットしたときの傾きを実効破壊電界と定義した。この結果、実効破壊電界1.2MV/cmを得た。一方、エピタキシャル層を全て除去した半絶縁性基板の上に互いに対向する電極対を形成して測定した基板部のみの実効破壊電界は1.3~1.4MV/cmであった。 これらの結果は、今日市販される半絶縁性GaN基板上にAlGaN/GaN HEMTを作製したときに得られるHEMTの絶縁破壊強度の上限が、半絶縁性GaN基板自体の絶縁破壊特性(リーク電流特性)によって支配されることを示すものである。すなわち、横型HEMT素子の高耐圧小型化には、半絶縁性GaN基板の更なる高抵抗化が重要であるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
市販の半絶縁性GaN基板上に電極間距離を変化させたAlGaN/GaN HEMTを試作した。基板にはFeドープの高抵抗GaN基板を使用した。試作したHEMT素子のゲート長は3um、ソース-ゲート電極間距離も3umとし、ゲートードレイン間距離Lgdを4umから50umの範囲で変化させた。各トランジスタについて、ゲートにしきい値電圧以下の電圧を掛けてドレイン電流を遮断したのち、ドレイン電圧を上昇させ、デバイスが破壊または流れる電流が1mA/mm以上になったときのドレイン電圧を破壊電圧とした。 メサエッチングされた周辺部からの漏れ電流の影響を調べるため、素子分離部のメサエッチング深さを200nmから1400nmまで変化させた。エッチング深さを1400nmにすることにより、デバイスの真性部分(電流の流れる部分)のエピタキシャル層が全て除去されたことに対応する。 このようにメサ分離部のエッチング深さの異なるHEMTについて破壊電圧をLgdの関数として測定した。また、耐圧とLgdの直線関係の傾きから実効破壊電界と抽出した。この結果、HEMTの実効破壊電界1.2MV/cmを得た。一方、エピタキシャル層を全て除去した半絶縁性基板の上に互いに対向する電極対を形成して測定したGaN基板部のみの実効破壊電界は1.3~1.4MV/cmであった。 この結果は、今日市販される半絶縁性GaN基板上にAlGaN/GaN HEMTを作製したときに得られるHEMTの絶縁破壊強度の限界が、半絶縁性GaN基板自体の絶縁破壊特性(リーク電流特性)によって支配されることを示している。すなわち、横型HEMT素子の高耐圧小型化には、半絶縁性GaN基板の更なる高抵抗化が極めて重要であるという知見を得た。これらの知見をH29年度の研究指針に反映させることとした。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は、まず自立GaN基板の高抵抗化を進める。このため、市販の基板メーカー(株式会社サイオクス)を通じて、GaN基板に含まれる残留ドナー濃度の低減と結晶品質の更なる向上の2項目について検討を依頼する。同時に、キャリア補償を可能とするFe不純物の添加を依頼する。Fe濃度については、異なるFe添加濃度の基板が準備できるように意図的に添加量の変化を試みる。これらの対策により、H28年度に用いた半絶縁性GaN基板より抵抗率の高いGaN基板を準備する。必要に応じて、半絶縁性基板の成長と評価のサイクルは所望の特性が得られるまで繰り返す。Fe不純物の添加による半絶縁性GaN基板の高抵抗化の実現については、基板メーカーへの依頼だけではどうしても上手く行かないときには、その対応策のひとつとして、研究分担者である山口大学の只友一行教授にその高濃度化とFe不純物の深さ方向分布の最適化をお願いし、高抵抗GaN基板上に単独に形成したオーミック電極間の抵抗測定から、1.5MV/cm以上の実効破壊電界強度の実証を目指すものとする。 こうして準備した高破壊電界強度をもつ半絶縁性GaN基板上に、福井大学の標準デバイスプロセス技術を用いてHEMTを試作する。ICPドライエッチングを用いてメサエッチングを行い、その深さを変化させることにより、基板単体の絶縁破壊とGaNエピタキシャル層の絶縁破壊を独立して評価する。ここで実効破壊電界は、昨年度と同じように、破壊耐圧のLgd距離依存性のプロットから求める。H29年度の達成目標は、半絶縁性GaN基板の高抵抗化に基づいて、1.5MV/cm以上の実効破壊電界強度をもつHEMTプロセスを構築することとする。また、耐圧1kVで電流10Aクラスのパワーデバイスチップを実際に試作し、開発したデバイスのパワースイッチング回路応用としての基本特性評価についても検討する。
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