研究課題/領域番号 |
16H04351
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
北田 貴弘 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任教授 (90283738)
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研究分担者 |
森田 健 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30448344)
熊谷 直人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (40732152)
南 康夫 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任准教授 (60578368)
盧 翔孟 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 特任助教 (80708800)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電子デバイス・機器 / テラヘルツ/赤外材料・素子 / 半導体非線形光学デバイス |
研究実績の概要 |
半導体多層膜結合共振器を使った"テラヘルツLED"の実現を目的としている。電流注入による赤外二波長レーザー発振と二次非線形光学効果による差周波発生を同一素子内で行うことを原理とする。室温動作の素子を目指して以下の内容に取り組んだ。 (001)および(113)Bエピウエハの直接接合で作製した結合共振器薄膜に素子プロセスを施して素子を試作した。前年度と同じく(001)側の共振器層には発光媒質として厚さの異なる2種類のInGaAs多重量子井戸を挿入し、差周波発生の役割を担う(113)B側の共振器層はGaAsとした。2つの共振器層の厚さを精密に制御し、かつ量子井戸の発光波長を共振器モード波長によく一致させることで、パルス電流注入で室温二波長レーザー発振をする素子を得ることができた。素子から生じる波長920 nm近傍の二波長レーザー光を非線形光学結晶であるBBO結晶に照射すると、2つのモードの第二高調波発生(SHG)信号に加えて和周波発生(SFG)信号が明瞭に観測された。これにより二波長発振の同時性が示されたが、そのSFG信号強度はSHG信号から予測される値よりも小さかった。ストリークカメラを用いた時間分解測定を行うと、パルス電流注入初期では短波側モードのレーザー発振が支配的で、時間の経過とともに長波側モードが支配的となっていく様子が見られた。これらの振る舞いは電流注入条件や素子温度に依存することもわかった。 室温赤外二波長レーザー発振する素子について、フーリエ赤外分光装置とGe光伝導検出器を使ってテラヘルツ波の検出を試みた。検出器の応答速度を考えて、1 kHzの繰り返しで1マイクロ秒程度のパルス電流を注入して素子を駆動し、ステップスキャンによるロックイン検出を行った。しかし、測定したインターフェログラムには、二波長レーザー光の差周波発生による明瞭な振動信号はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体多層膜結合共振器を使ったテラヘルツLED素子の動作で最も重要な要素となる赤外二波長レーザー発振が、パルス電流注入条件下ではあるが室温にて実現できた点は評価できる。また差周波発生には必須となる二波長発振の同時性が示された点も大きい。しかし、現状の素子では、二波長発振の時間的重なりが完全ではなく、パルス条件や素子温度に依存するため、差周波発生でテラヘルツ波を効率よく得るには駆動条件を適切に選ばなければならない。これは、電流注入による素子の発熱によって長波側モードでのレーザー発振に移行しやすいことに起因している。活性層として二次元の電子状態をもつ量子井戸を用いているためにみられる現象と考えているが、素子構造や放熱対策により改善できると考えている。 フーリエ赤外分光装置とGe光伝導検出器による計測系で、二波長発振する素子からのテラヘルツ波信号が見られなかったことはマイナス点である。検出器の応答速度がミリ秒程度であるのに対し、良好な二波長発振を得るにはマイクロ秒以下のパルス電流で素子を駆動することが望ましい。現有のパルス電流源を使ってロックイン検出を実施するには、デューティ比が0.1%以下で素子を駆動することになり、時間平均のテラヘルツ波強度が検出に十分でないことが要因と思われる。また計測の際、プローブ針を素子に接触させて電流注入を行っていたが、接触不良による発熱や素子破損等の問題も生じていた。上記を改善することでテラヘルツ波の分光計測が可能になると考えている。上述の実績に加え、アレイ化構造を実現するための具体的手法の検討や、光伝導アンテナ素子を使った新たな分光計測系の構築も実施できたことから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
テラヘルツ波発生効率の向上を目指して素子の試作を実施する。これまでは(001)と(113)Bエピウエハの直接接合で結合共振器薄膜を作製していたが、共振器層の双方が二次非線形媒質として機能し、かつ赤外二波長レーザーの偏波制御も実現できるように、2枚の(113)Bエピウエハを直接接合して結合共振器薄膜を作製する。室温での二波長発振が実現できるよう、各層の膜厚を精密に制御してエピウエハを準備する。接合には表面活性化常温ウエハ接合法を用いる。機械研磨と選択エッチングにより一方の基板を完全に除去し、ウエットエッチングによるメサ加工、電流狭窄のための選択酸化、リフトオフによる電極形成等で素子を試作する。まず、試作した素子の室温レーザー発振特性(電流―光出力曲線、発振スペクトル等)を、プローブ針を使ったパルス電流注入で行う。二波長発振特性に優れた素子のGaAs基板を薄片化し、Si高抵抗基板に光学接着剤でサブマウントする。ワイヤボンディングにより配線を施した後、Si半球レンズを機械的に固定することで安定したテラヘルツ波計測が実施できるようにする。室温で赤外二波長発振する既存の素子と新しく試作する素子について、フーリエ赤外分光器とGe光伝導検出器を用いて電流注入により発生する単色のテラヘルツ波を分光計測する。平均強度の高いテラヘルツ波を得るため、数百ヘルツの周期でバースト的にマイクロ秒以下の電流パルスを発生する電源を自作し、これを使ってステップスキャンによるロックイン検出でテラヘルツ波を計測する。同じ駆動電源を使って、低温成長InGaAs量子井戸による光伝導アンテナ素子を使った測定系による分光計測も試みる。また、高強度化に有効な二次元アレイ構造を実現するため、メサ構造へのホール形成と選択酸化による素子集積構造の試作も行う。
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