本年度は磁壁移動実験に用いる薄膜におけるジュール熱を利用した磁壁の導入、3次元磁壁転送路における磁壁の安定転送のためのコンピュータシミュレーションによる磁性細線形状の最適化を行った。 多くの研究がなされている磁壁移動実験において、一般的な磁壁導入の方法として電流磁界を用いた方法がある。しかし、異方性磁界が大きな材料系の場合、電流磁界による磁壁導入は必要な電流値が上昇し困難となる。そこで、電流を細線に流した際に発生するジュール熱による局所的な熱反転を用いた磁壁の導入について検証を行った。十字型細線パターンを作製し、縦方向に電流を流すことで十字型中央部における保磁力の電流値依存性を測定し、最大で20%程度の保磁力低減を確認した。 レーストラックメモリが考案された当初に想定された3次元転送路をU字形状でモデル化し、磁性細線が垂直異方性を有するものとして磁壁の安定転送の可能性を調査した。このタイプの転送路は面内磁化と垂直磁化細線とが組合わさったものである。一般に面内磁化細線における磁壁転送に必要な電流密度は垂直磁化細線におけるものより約1桁高いため、これらが同一の転送路に組み込まれた場合には磁壁の安定転送は困難になる。そこで面内・垂直細線部のそれぞれで細線のサイズを調整することで、一定電流で面内および垂直磁化部の双方において安定に磁壁転送を行うことができる形状を明らかにした。また、その電流マージンは約30%程度と比較的大きいが、必要電流密度が2×10^8 A/cm^2程度という大きな値であった。これは面内転送部における磁壁転送に必要な電流密度がボトルネックになっているためであることを示した。
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