抗原抗体反応などの生体高分子を検出するセンサは、小型なものであることが望ましい。水晶振動子(QCM: Quartz Crystal Microbalance)を用いた抗原抗体反応測定において、測定感度を向上させるためには水晶板の薄片化が求められるが、機械強度の低下につながる。 質量付加による共振子の共振周波数シフトは、付加質量と共振子質量の比によって決まる。測定感度を向上させるためには、共振子を薄片化し、その質量を減らす必要がある。一方で圧電薄膜共振子(FBAR: Film Bulk Acoustic Resonator)は薄膜を用いるため共振子部が非常に軽く、QCMに比べてより高感度な測定が可能である。しかし、FBAR作製のために基板のエッチングが必要であるほか、膜割れの危険性がある。 本研究では、音響多層膜共振子(SMR: Solidly Mounted Resonator)を用いた。基板上に高低音響インピーダンス層を交互に積層することでブラッグ反射器が構成され、圧電薄膜と基板を音響的に分離することができる。圧電薄膜は基板に固定されているため、膜割れを防ぎつつも高感度評価が可能となる。さらに、基板に熱を放射できるため周波数温度係数(TCF: Temperature Coefficient of Frequency)が良い。 これまでの他研究機関の報告では圧電薄膜の擬似すべりモード電気機械結合係数k’15^2がおよそ1.7%とさほど高くない。そこで我々は、c軸傾斜ScAlN(傾斜角度: 48°)を用いた音響多層膜共振子を作製し、液体粘性の評価を試みた。結果、縦波が十分抑制され、k’15~2 = 13.0%と高品質なScAlN薄膜の作製に成功した。さらに、グリセリン水溶液の濃度変化に伴う反共振周波数ピークの変化が観測された。
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