研究課題/領域番号 |
16H04367
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
臼田 毅 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (80273308)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 情報通信工学 / 量子情報理論 / 量子通信 / フェージング / 通信路容量 |
研究実績の概要 |
本年度に行った研究を要約すると次のようになる. 1.ビームワンダリングがある場合の量子信号伝送限界:量子暗号の実用化研究等において,通信路の不完全要因として最近注目されているビームワンダリングについて考察した.ビームワンダリングは,本来のフェージング現象とは少し異なるが,我々がこれまでに取り扱ってきた振幅の確率的減衰モデルにおいて,確率分布を変えることで記述可能である.この通信路の伝送限界として,2元及び多元の量子信号に対し誤り率を最小とする量子最適検出を導出した.また,離散化通信路容量の特性も調べた.両者とも,古典最適検出との明確なギャップがあることを確認した.後者においては,信号の最適先験確率分布の特性が,定量的には古典と量子で異なるものの,予想と反し,定性的には同様の結果となった. 2.符号化による非対称信号の対称化:これまでの我々の主要な成果として,通信路行列公式の導出がある.これは,量子信号の対称性を利用し,通信路行列の解析解を与えるものだが,非対称信号を取り扱うことができなかった.しかし,非対称信号にも重要な信号があり,さらに,通信路容量などの限界特性により速く近づくのは非対称信号であることから,非対称信号を取り扱うことが長年の課題であった.量子通信において,究極的な特性を得るには符号化は不可欠であるが,元の信号が非対称でも符号化後に対称にできることを3ASK信号に対する例を通じ示した. 3.トレース距離を用いた誤り率近似式の近似誤差特性:通信路の伝送限界特性を調べる際,信号の元数や符号語数などの規模が大きい場合は,計算が非常に困難となる.このため,我々は,トレース距離を用いた誤り率近似式を提案してきたが,その精度保証に向け,近似誤差の特性を詳細に調べた.その結果,誤差が誤り率の2乗程度という従来の大ざっぱな見積もりから,より精密な見積もりが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,量子情報分野における最近の研究動向を踏まえ,本研究で取り扱う量子フェージング通信路モデルと密接に関わるビームワンダリングについて特性解析を行った.また,長年の課題であった,非対称信号の解析的な取り扱いに関し前進した.前者は世界の動向に合わせ,当初計画した研究に加えて行ったものであり,後者は当初の計画以上の進展と言える.一方で,当初計画からの修正があったことから,やや遅れている部分もあり,総合すると,おおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,符号化による非対称信号の対称化のアイデアの有効性が,3ASK信号に対する例を通じて示せたため,さらに多元あるいはQAMなどの他の信号についても考察し,設計論へと発展させることを重点課題の一つとする.また,ビームワンダリングがある場合の離散化通信路容量を与える信号の最適先験確率分布の特性が,予想と反し,古典と量子で定性的には一致したため,よりベーシックな通信路に立ち戻り,原因を解明する.その他は当初の計画を基本としつつ,引き続き世界の動向を見極めながら,柔軟に研究を推進する.
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