研究課題/領域番号 |
16H04373
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
山越 芳樹 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (10174640)
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研究分担者 |
弓仲 康史 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (30272272)
砂口 尚輝 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (60536481)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エラストグラフィ / ずり粘弾性 / 超音波映像 / カラードプラ |
研究実績の概要 |
生体内部組織に周波数1KHz程度までのせん断波を伝搬させ、その速度から組織の硬さ映像を得るエラストグラフィは癌診断において、触感に繋がる有益な情報が得られる診断法として注目を集めるが、従来法は定量性、実時間性、生体安全性などで課題が多い。本研究は研究代表者が考案した実時間性と定量性を持つ、従来の映像概念とは全く異なる「カラードプラ波面検出法」を基礎とし、これに高分解能化、精度向上のための方法を新規開発することで臨床が求める精度(5%)と分解能(3mm)を達成し、弾性映像の将来を拓く基盤になる新規映像化法を世界初で実現する。本方法は、乳腺、甲状腺診断だけでなく、疾病の発症機序解明など基礎医学分野、粘弾性媒質の新規その場評価法として生体材料開発やゲル科学など基礎科学にも大きな貢献をなす。 平成28年度は以下の研究を行った。高精度せん断波伝播可視化法の確立に関して、まずシミュレーション法の確立と信号処理開発を行った。信号処理部のシミュレーションに関しては、ロバストで高分解能なせん断波速度推定法が必要になるが、生体由来の拍動や呼吸などの雑音がある条件下でのロバストな速度推定法を検討した。せん断波励起用の小型・高効率・広帯域なアクチュエータの実現に関しては、平成28年度に映像対象として設定した乳腺ではリニア振動アクチュエータが周波数範囲、振幅の両面で最適であることが分った。本年度は、速度推定法として新たにせん断波振幅変調映像法を開発し導入したが、この方法は、癌組織と正常組織との速度比を映像・計測対象とする方法であり、分解能を低下させる空間微分が本質的に不要で臨床で求められる3mmの空間分解能を達成できる方法と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の成果は、関連技術開発、ファントムを用いた基礎実験だけでなく実用化を見据えた臨床へのトランスレーショナルリサーチを推進できた点である。映像対象を乳腺(乳がん)とし、群馬大学IRBの認証後、被験者への文書による説明とインフォームドコンセントのもと、2016年10月から2017年1月までの期間、群馬大学医学部附属病院乳腺外科に於いて乳癌の確定診断がなされた術前の15名の患者に対して、本手法による乳癌の映像評価を行った。この結果については現在解析中であるが、従来の超音波映像であるBモード画像では映像化しづらい小葉癌などの膿瘍にたいしてもBモード画像と本手法の画像を併用することで癌組織の可視化が容易になることを明らかにできた。また従来のせん断波映像系であるARFI法では計測できるせん断波の伝播速度が超音波のパルス繰返し周波数等の制限から7.7m/sに制限され、文献によると癌の97%がこの上限値以上であり、従来法では癌組織のせん断波の伝播速度が計測できなかったのに対して、測定値の上限がない本手法を用いて計測したところ、平均値で25m/s内外であることを世界で初めて明らかにできた点も本研究の大きな成果の1つとして挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、基礎技術開発とともに臨床評価に注力し対象を乳癌だけでなく、骨格筋やリハビリテーション等の領域に広げて研究を行っていく。せん断波伝播可視化法の確立については、平成28年度の研究成果を基盤としてロバストで高分解能なせん断波波面推定法および3次元せん断波波面再構成の研究を行う。伝播速度計測法の確立では波数ベクトル解析に基づく伝播速度計測法を開発する。この速度推定法は、せん断波の回折による誤差を低減させる回折フリーな速度推定法である。さらにファントムを用いたこれら手法の精度や空間分解能の評価を行う。実用化を見据えた臨床へのトランスレーショナルリサーチの推進では、骨格筋模擬ファントムの構成について検討し、骨格筋を専門とする臨床専門家と共同して、倫理委員会の承認を得て提案法の臨床評価を行う。これら成果をまとめて内外の関連学会で報告する。
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