研究課題
「表面放射電波を利用した弱磁場・低RF方式NMRの測定原理とコア技術の開発」の2年目の研究実績を次のように報告する。電波の強さも含めSAW表面付近での分布は、NMR測定に重要なファクターである。また、空間的分布は、電波の効率的試料照射においても重要である。理論予測に加え実測でその分布を確認する必要がある。光学的測定には、印加した電界に比例して屈折率が変化する1次の電気光学効果を有するEO結晶を用いる。電界がない場合、光は偏向せずに反射して戻ってくる。電界が存在した場合、結晶面や偏向状態によって屈折率が変化し、光の偏向状態が変化して戻ってくる。光強度の変化から電界強度が求められる。この光学計測方法では、精度が高い代わりに空間的な分解能は1mm前後にある。放射電波分布全体像の把握に適切だが、より精密な空間分布測定には電気的計測も予定している。電波分布の電気的計測に電気プローブを用いる。先端径1μm以下のタングステンプローブを電波空間に挿入し、反射や干渉などの効果を避け、放射面の近傍界を測定する。電界の影響を受け、プローブに誘導電位が生じる。プローブは、装着ピエゾチップによって振動し、振幅は電界の強度に比例する。振幅値はピエゾ素子によって得られるが、装着コンデンサ容量の変化から微弱電界の測定は可能であり、1μm以下の分解能で電波の空間分布が測定できる。以上の光学的及び電気的実測法は、SAWデバイス表面付近の電波分布の確定には有効であるが、空間分解能などの問題もある。これらの方法を使わなくても、特性既知の試料をSAWデバイス表面付近に設置し、その特性の評価を通じても電波の特性を間接的に評価することもできる。実測前にまず、Si結晶を用いて評価をおこなった。また、SAWデバイス表面のトランスデューサーの間に各種波長のアンテナを作製し、SAWから電波が放出されたことも確認できました。
2: おおむね順調に進展している
酸化膜付けSi単結晶の基板上に1層から5層までのグラフェン膜を作製し、SAWデバイス表面付近に設置して、SAWからの電波放射測定をおこなった。グラフェン層の数によって、特性既知のSiへの入射電波強度を制御した。また、矩形波入力信号に対して、出力信号はSAWデバイスの基本周波数50MHzのパルスが時間遅延をもって観測された。出力波形に低周波成分が混ざっていることも明らかとなった。そこでフーリエ処理を行いノイズの低周波成分を除き、その包絡線から出力信号の遅延時間を求めた。SAWとテスト試料との位置設定で、SAWデバイスの入力電極から高周波信号を入れると、弾性表面波が発生し出力電極の方向に伝搬すると同時に、圧電ポテンシャルが空間に広がり試料に導入された。試料表面にグラフェン膜を形成すれば試料に導入する電界の強度が制御できる。グラフェン膜のラマンスペクトルが測定しGバンドと2Dバンドが見られた。1層グラフェンではGバンドが弱く、2層では二つのバンドの強度はほぼ同じ、更に3層以上ではGンドが強くなるとの研究結果より、本研究に使用したグラフェン膜では、その層数は間違いないと確認できた。また、出力信号の強さから試料の電波吸収強度、更に信号の時間遅延などから試料中キャリアとの相互作用強度が評価できた。つまり、本研究が目指しているSAW表面から放射する電波の強度が計測できるようになった。また、SAWデバイス自身も、温度の増加によって放射電波の強度が弱くなることも判った。その原因の一つとして、圧電結晶中原子の熱振動により表面波のエネルギーは逸散したと考えられる。更に、グラフェン膜については、キャリア濃度はそう大きくないが、移動度が大きいため、十分に電波を遮蔽したことが観察された。ただ1層のグラフェン膜でも温度の範囲にもよるが、SAW表面からの放射電波を遮蔽することが確認されている。
SAWデバイスの表面から漏れている圧電ポテンシャルは、その近傍に設置された試料に導入できることが確認された。特性既知のSi試料を用いて実験した結果、電界が相当な強度を持ち単層グラフェン膜を透過できることを判明した。今後の課題として、グラフェン膜を通じて、磁界成分の少ないこの局在電界を放射電波への変換を実現することであり、磁気的エネルギーの割合を増やすことである。そうすることによって、局在電界は電波となり、NMR装置に利用されることを期待している。具体的には、SAWデバイスのトランスデューサーの間に各種波長のアンテナを作製し、そのアンテナの形状設計から、できる限り広い周波数帯域の電波を放射させことである。次の課題として、如何に放射電波のエネルギー密度を増加させることが挙げられる。アンテナにはサイズがあり、真空中のサイズより百万分の一にもあるが、依然として百マイクロメートルのオーダーにある。ナノ材料の微量な試料を測定するためには、より小さいサイズを実現したいと考えている。そのためには、より音波速度の低い圧電結晶を利用する予定である。
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