2方向地震動と漸増動的解析を用いた構造物の耐震性能評価と設計照査法に関して、次の成果が得られた。 (1) 実際構造物への漸増動的解析による耐震性能評価の検証例:ネパールパタンの歴史的組積造建物および熊本の通潤橋の耐震性を漸増動的解析により評価した.それぞれの構造物が実際に経験した2015年ゴルカ地震および2016年熊本地震による損傷状態のモデルによる評価は妥当であること、およびより大きなレベルの地震動で生じる損傷レベルとの関係が、本解析により示された。 (2) 2方向入力に基づく地震応答と地震損傷に関するリスク評価:曲線桁の曲率が異なる複数の曲線橋構造モデルに対し、水平2方向と共に桁と橋台の衝突による回転も考慮した漸増動的解析を行った。ゴム支承の破断および落橋の2段階の損傷レベルを想定し、対応するフラジリティカーブの形での耐震性能と損傷リスクの評価結果が得られた。地震動の強さと50年間の発生確率および各段階の破壊による損失効果を考慮してそれぞれの地震リスクを計算した結果、耐震設計で2方向同時作用による地震リスクは曲線橋の曲率が大きい場合に増大する傾向があり、特に曲率が大きい(斜角が100度以上)の場合、落橋確率が急増することを見出した。 (3)構造設計への適用に関する整理:線形弾性構造系モデルを用いた検討により、2方向入力の位相極性への応答評価への影響が大きくなる可能性が明らかとなった.これを踏まえた考察により、2方向地震動を入力として用いる場合には、安全側の評価のため、全ての入力方向のみならず2つの位相極性についての応答解析を行い、より大きい応答値を許容値と比較する考え方を導入する必要性が高いとの結論が得られた.
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