豪雨による斜面災害の降雨情報や現地計測に基づく早期警報に対して、近年のセンサー、無線、情報の技術の急速な発達にともなって、より低コストかつ高精度で斜面を監視する様々な方法が試されている。本研究は、地盤を伝わる弾性波の伝播特性の変化から、斜面の状態の変化を検知する可能性を探るため、模型と実斜面で斜面表層に雨水が浸透し変形し崩壊する過程を観察して、弾性波速度が変化する要因を検討した。 先行研究によれば、斜面の表層崩壊の前には、特に法尻部の飽和度が 80% ~ 90% に達して微少な変形が起こり徐々に加速して崩壊に至る。また細粒分を含む砂質土の三軸供試体で、異方応力下での注水により弾性波速度が20~30%低下し、供試体が降伏して変形が進むと弾性波速度が急速に低下する。 本研究では斜面の表層地盤の模型実験を行った。斜面崩壊の平均的なすべり面の深さを考慮して、高さ1m(1段5cm×20段積層)のせん断土槽を使い、各層に斜面の傾斜に応じたせん断応力をかけながら、上端から人工降雨を与え、水が土層内を鉛直に流下する過程で、各深さの弾性波速度を測定した。その結果、鉛直圧縮応力、体積含水率、せん断変形(あるいはせん断応力)の変化と弾性波速度の変化との間の単な関係式を提案した。振動の振幅についても、水分量の増加とせん断変形の増加に減衰を大きくする作用が見られた。 実斜面での検証として、2016年の熊本地震で表層部が損傷した阿蘇外輪山内側の斜面表層で弾性波速度を測定した。電磁石を用いて地中で10分ごとに弾性波を発振し、離れた場所で受信して、その時間差から求めた弾性波測度をインターネットでサーバーに送信する装置を開発して、全自動で継続的に計測した。計測期間中に、斜面に大きな変形はなかったが、降雨にともなう地中の体積含水比の変化と、弾性波速度の変化の間に負の相関が見られ、模型実験の結果と一致した。
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