研究課題/領域番号 |
16H04427
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
多々納 裕一 京都大学, 防災研究所, 教授 (20207038)
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研究分担者 |
梶谷 義雄 一般財団法人電力中央研究所, 地球工学研究所, 主任研究員 (80371441)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大規模地震災害 / 交通工学・国土計画 / サプライチェーン損傷 / 残存操業能力 / 産業回復過程 |
研究実績の概要 |
災害発生後から復旧・復興に至る災害の全過程を通じて経済にもたらされる被害の整合的な評価のための方法論の開発を目的とする.本研究では,東日本大震災後に実施した企業アンケート調査結果,及び,大規模企業間取引データを用いて,サプライチェーン損傷の影響を分析(ミクロ分析)し,その知見を空間的一般均衡モデルを用いた被害計量化方法に反映する(空間的一般均衡分析モデルの改良)ことによりこれらの課題の解決を目指す.本年度の成果を概観すると以下のようである。 (1)ミクロ分析:東日本大震災時のハザード分布と企業の分布とを重ね合わせ,直接的な被災企業の特定化を試みた.その上で2010年,2011年の取引状況の変化との関係を調べ,震災に伴う取引先発生の実態の把握を進め、産出水準の変化とも合わせて分析することで,被災地域内外におけるサプライチェーン被害に関する分析を実施した。 (2)空間的一般均衡分析モデルの改良: ①被災企業の残存生産能力推計モデルの開発:2011年および2012年に実施した企業アンケートに基づき、このうち、「機能的フラジリティ曲線」と「生産能力回復曲線」を再推計し、モデルの精緻化を図る.この際、既往の研究で得られたパラメータとの有意差に関する検討を実施することによって、データ統合の可能性に関しても検討した. ②残存生産能力のSCGEモデルへの反映方法の検討:SCGEモデル等の経済モデルに残存生産能力を反映する方法としては、①資本の有効利用率の低下として与える方法や、②多階層のCES生産関数等を用いて、その構造とパラメータの違いとして表現する方法、③全要素生産性の低下として表現する方法等がある.本研究では、既往の方法に比べて本研究で提案する方法が現象再現性をどの程度向上させるのかを明らかにするとともに、これら3つの方法を相互に比較し、どの方法が最も説明力が高いかを実証的に明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ミクロ分析に関しては、当初の計画に予定していた①震災による企業取引の変化要因の分析,②復旧・復興に伴う資本再形成過程の解明のうち、①に集中し、検討を行ってきた。東日本大震災時のハザード分布と企業の分布とを重ね合わせ,直接的な被災企業の特定化を試みた.その上で2010年,2011年の取引状況の変化との関係を調べ,震災に伴う取引先発生の実態の把握を進め、産出水準の変化とも合わせて分析することで,被災地域内外におけるサプライチェーン被害に関する分析を実施した。その成果は2017年春の土木計画研究発表会で発表予定である。 (2)空間的一般均衡分析モデルの改良に関しては、①被災企業の残存生産能力推計モデルの開発、②残存生産能力のSCGEモデルへの反映方法の検討を予定通り進めるとともに、被災地域外への被害の波及を再現するための条件として、産業分類の詳細さや代替弾力性に関する設定が重要であることを見出し、その系統的な設定方法に関しても分析を加えた。これらの成果は、第23回のInternational Input-Output Associationの世界大会、第1回のInternational Workshop on Resilienceで報告するとともに、英文論文としてその成果を取りまとめ、投稿しているところである。 このように、ミクロ分析に関しては実施予定を下回ったものの、空間的一般均衡分析モデルの改良に関しては当初予定を上回る成果を得ていることから、概ね順調に進めることができたと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ミクロ分析に関しては、当初の計画に予定していた③復旧・代替生産に関わる企業の意思決定モデルの構築に加えて、②復旧・復興に伴う資本再形成過程の解明を実施する。 (2)空間的一般均衡分析モデルの改良に関しては、代替弾力性等のパラメータの設定方法に関する検討に関しては、①復旧の実態に即したモデルの動学化のためのクロージャに関する検討や②准動学モデルの開発に向けた検討を行う。
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