研究課題
鉄はほぼすべての生物にとって重要な必須栄養素である。三陸沿岸を含む沿岸域では鉄分が不足することにより一次生産が制限されているとの懸念があり、また流域によっては鉄動態が下水処理排水等の流域人間活動に影響を受けている可能性もある。鉄の生物利用性や一次生産(藻類増殖)に及ぼす影響は、酸化還元反応や沈殿反応を含む鉄の化学反応速度論に依存するため、沿岸域一次生産評価には鉄の反応速度論を調べることが重要となる。今年度の研究では、鉄の動態に影響を及ぼす水質因子の中でも特に重要と考えられる有機物質組成に着目し、三陸沿岸域ならびに相模川流域において鉄の酸化還元反応に及ぼす有機物質の影響ならびに沿岸域における鉄の凝集沈降作用を明らかにすることを目的とした。南三陸町志津川湾流域の河川・沿岸域における野外調査では、鉄濃度ならびに鉄の動態変化に影響を及ぼす水質因子(有機物やpH等)のモニタリングを実施した。上記水質項目に加え、生物利用性に重要な鉄の酸化動態をケミルミネッセンス法により調べた。志津川湾調査では、河川水や湧水、浄化槽排水などの淡水と異なり沿岸域では微細藻類が生産する自生有機物が存在することで、鉄の酸化反応を減速させる作用があることが分かった。このことは、沿岸域藻類由来有機物は鉄の生物利用性を高めていることを示している。神奈川県相模川流域においても野外調査ならびに室内実験を実施し、上述の種々の水質分析ならびに速度定数の測定から、下排水に含まれる人為由来溶存態有機物は脂肪族含有量が高く、脂肪族含有量が高い試料水ほど鉄の酸化速度が高い傾向が得られた。この結果は、人間活動の影響を受ける水域において、人為由来溶存態有機物が鉄の化学形態や生物利用性に影響を及ぼしていること示している。さらに、河川を通して陸域から供給される溶存鉄は沿岸域における凝集沈降作用により9割程度除去されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度までに実施した研究の進捗状況を踏まえ、当初予定した課題を実施することができ、おおむね順調に進展していると判断する。
本研究課題の今後の推進方策について、河川・沿岸域における鉄動態に関する野外調査を継続すると共に、沿岸域微細藻類による鉄摂取フラックスと増殖応答の定量に関する室内実験に取りかかる。
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Chemosphere
巻: 180 ページ: 221-228
10.1016/j.chemosphere.2017.04.008.