研究課題/領域番号 |
16H04463
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 容平 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40448098)
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研究分担者 |
下田 吉之 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20226278)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 業務部門 / エネルギー需要モデル / デマンドレスポンス / 建築設備 / 設備運用 |
研究実績の概要 |
ピーク電力需要が観測される夏期・冬期において電力需要を削減させる、あるいは、太陽光発電出力に合わせて電力需要を増減させるデマンドレスポンスが注目されており、本研究が対象とする業務施設ストックは大きな電力需要調整能力を有すると期待されている。本研究は電力需要調整能力を推計・評価することができる業務部門エネルギー需要モデルの開発を目的としている。平成29年度は下記の開発課題5点に取り組んだ。 1) 全国業務施設ストックに関するデータモデリング 昨年度、事務所、宿泊、医療、商業施設についてストックの把握を行った。今年度は空気調和・衛生工学会、建築設備士協会等が発行する竣工設備データに基づいて建築設備採用状況を模擬する回帰モデルを開発し、日本全国の空気調和設備別のストックの推計を終了した。2) 業務施設の稼働状況のモデル化 パーソントリップ調査を用いて、業務施設利用者エージェントを生成して滞在時間を模擬し、現実的な設備稼働状況の想定を可能とした。3) エネルギー需要モデルの開発 昨年度までに、エネルギー需要を推計するソフトウェアとハードウェアの準備を終えた。今年度は、エネルギー需要推計に用いる入力条件として、日本全国の業務施設ストックを代表する多数の建物モデルを開発した。これにより、日本全国の事務所、宿泊、医療、商業、飲食、文教ストックのエネルギー需要推計を行うことができるようになった。4) エネルギー需要モデルの精度検証 3)で開発したモデルをDECCおよびSIIにより公開されている実態データと比較して、精度検証を行った。5) デマンドレスポンスの評価 デマンドレスポンスの有力な技術として、電気駆動給湯機の蓄熱を用いた電力需要調整がある。これを考慮するため、給湯需要および給湯用エネルギー消費を推計するモジュールを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 全国業務施設ストックに関するデータモデリングとサンプリング手法の確立については、昨年度までに全国業務施設ストックのデータの整備が終了している。建築設備に関する竣工設備データに基づく回帰モデル開発の方法論を確立し、日本全国の業務施設を対象として空気調和設備ストックの推計が完了した。この内容でEnergy and Buildings誌に論文が採択された。2) 業務施設の稼働状況のモデル化については、昨年度は事務所ビルのみを対象としていたが、今年度は考慮した全用途における設備稼働状況を模擬できるようになった。3)で開発している都市圏単位のエネルギー需要モデル開発では、専門家へのヒアリングを行い、日本の業務建築ストックを代表する建築、設備の仕様を反映した建物モデルを開発することができた。4)の精度検証については、現在進行中であり、若干精度が低い建物群があることを確認し、対応策を検討している。5)として実施した内容は今年度から実施したものであるが、事務所、宿泊、医療についてはモデル化が終了した。以上のようにおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は実施内容1)~5)を継続する。1) 全国業務施設ストックに関するデータモデリングでは、空調用途以外についても設備採用状況を体系的に調査し、基準年(2013年を想定)におけるエネルギー需要のベースラインの推計、2030年を時間断面とする将来推計において、適切な技術水準を設定できるようにする。2) 業務施設の稼働状況のモデル化では、滞在状況と設備稼働状況に関する関係性について情報収集し、時系列のエネルギー需要の挙動の再現精度を向上させる。また、3) エネルギー需要モデルの開発では、対象ストックにおける全エネルギー用途を対象としてエネルギー需要を推計できるようにする。昨年度までに空調、照明・コンセントについてはエネルギー需要を推計することができるようになったが、給湯、調理・厨房、その他用途については不十分なものがある。実態データ調査や文献調査を行い、エネルギー需要推計モデルを完成させる。加えて、計算対象とする都市圏や国土に立地する業務施設を数万件程度に縮約して建物モデルを生成するサンプリング手法を確立する。昨年度までにストックを代表する建物モデルは完成したが、建物モデルの数が少ない場合、エネルギー需要の動的挙動が不自然になる危険がある。これを避けるため、地域スケールの推計であっても代表モデルを複数生成し、異なる居住者滞在条件での推計結果を重ね合わせて地域全体のエネルギー需要とする必要がある。この方法論を確立する。4) エネルギー需要モデルの精度検証では、引き続きDECC、SIIの実態データを用いて評価を行い、精度検証を完成させる。5) デマンドレスポンスの評価では、業務部門が有する調整可能な電力需要を定量化し、電力需要の調整による電力システムの経済性や安定性への貢献を評価する。
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