研究課題/領域番号 |
16H04465
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
大鶴 徹 大分大学, 理工学部, 教授 (30152193)
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研究分担者 |
富来 礼次 大分大学, 理工学部, 准教授 (20420648)
岡本 則子 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (00452912)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音響数値シミュレーション / インピーダンス / 吸音測定 / 不確かさ / 音圧・粒子速度センサ / 境界条件 / 校正法 |
研究実績の概要 |
本研究は、実験と数値シミュレーションの2者で構成される。 【実験】提案中のアンサンブル平均を利用する吸音測定法(EA法)について、初年度の実験で得られた知見に基づき、音圧粒子速度センサ(PUセンサ)を100 Hz ~ 3000 Hzの周波数領域で校正可能な音響管を試作した。まず本学残響室において実施したEA法により、試作機が所用の性能を達成していることを確認した後、この試作機を用い本学を含む3大学の残響室においてEA法を実施したところ、3室で得られる吸音率間の相関係数が0.9以上、かつ、不確かさ(標準偏差)が0.06以下であることが明らかとなった。あわせて、100 Hz以下の低周波数域の測定に関し、実験室の環境整備等を示す基礎データを蓄積した。また、音源に関する検討を開始し、音源数を簡易化する可能性を見出した。なお、アクリル模型室等の壁面をEA法で求め数値シミュレーションへの入力データとして蓄積し、一部、シミュレーションを実施した。 【数値シミュレーション】初年度購入した大規模計算用ワークステーションを活用し、アクリル模型室や温度分布のある室の有限要素シミュレーションを実施し、インパルス応答や残響時間等、音場評価指標を算定した。なお、吸音境界条件はEA法による測定値を適用し、実測インパルス応答や残響時間等との照合を図った。また、小規模解析・後処理用計算機の導入し、得られた数値データを可視化した。あわせて、媒質や境界形状、柔壁境界等の影響を検討するため、スイミングプール内音場のシミュレーションを試行するとともに、全国共同利用施設を利用する超大規模シミュレーションのための準備を開始した。 得られた成果は、Applied Acoustics誌論文、及び、(一社)日本建築学会大会、(一社)日本音響学会研究発表会、ICSV24 (ロンドン)、Internoise(香港)等で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実験で目的とした、3000 HzまでのPUセンサ校正を可能とする音響管の試作に成功するとともに、3箇所の残響室でEA法による吸音測定を行い、測定吸音率に含まれる不確かさが十分に小さいことを確認できた。数値シミュレーションについても、境界条件にEA法で得られたインピーダンスを与え、アクリル模型室内のシミュレーションを実施し、実測値と初期応答が十分一致していることが確認できた。なお、当初予定していなかったスイミングプール内音場のシミュレーションを実施することで、媒質や境界条件に多様性をもたらすことに成功した。本研究でこれまでに得られた成果をまとめ、2つの権威ある国際学会のプロシーディングス2編、国際ジャーナル誌(Applied Acoustics)論文1編、他、国内外で15編の講演論文(うち招待講演1編/うち国際会議1編)を公表しており、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
【実験】提案中のアンサンブル平均を利用する吸音測定法(EA法)について、昨年度までに開発したPUセンサの校正法を活用し、実在の音場5箇所程度でin-situ 測定を実施し、得られた吸音率に含まれる不確かさを明示するとともに、昨年度求めた残響室における吸音測定に関する不確かさと比較する。この際、現場測定で重要となる、背後床面吸音や設置共振の影響について検討し、それらを排除する実用的手法の提案を行う。 昨年度に引き続き100 Hz以下の低周波数域の吸音測定を可能とする校正法の改良、ならびに、音源に関する検討を行う。なお、100Hz以下の測定については、校正法の改良のみでなく、拡散性や暗騒音対策等、測定環境の改善を含め検討する。測定では、PUセンサを用いるEApu法と、2本のマイクロホンを用いるEApp法の両者を適用し、測定結果の差異や不確かさについて比較検証し、それぞれの測定方法に関する測定指針としてまとめる。 さらに、アクリル模型室やホール等の壁面をEA法で求め数値シミュレーションへの入力データとするとともに、インパルス応答の実測を行い数値シミュレーション結果と照合する。 【数値シミュレーション】スイミングプールを含む大規模3次元音場をシミュレートし、インパルス応答や残響時間等、音場評価指標を算定する。吸音境界条件はEA法による測定値を適用し、上記実測インパルス応答や残響時間との照合を図る。得られた数値データを可視化・可聴化し、温度変化等の影響について検討し、幾何音響と波動音響が棲み分けるべき限界周波数fcr を明らかにしていく。 以上を総合し不確かさを管理した音響数値シミュレーションシステムとして確立するとともに、建築学や音響学分野で権威ある(一社)日本建築学会、(一社)日本音響学会、および、ICSV 25 (7月)、WESPAC(11月)等で、順次公表していく。
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