本研究はわが国固有の都市基盤である近世城下町を起源とする城下町都市の明治以降の都市づくりを文脈的に解釈し、その延長上で計画論へと応用する方法論を確立しようとする構想である。そこで歴史的環境を基盤とした文化的景観における継承、破壊あるいは創出の観点から空間履歴、空間利用および議論から近代都市づくりの思想と計画技術を、価値化と評価を切り口として解き明かすことを目的としている。その目的を達成するため以下の3点について研究を進めた。 第一に天守の「利用」からみた文化的景観形成の思想について分析を進めた。藩政期から残る天守が、近代において内部が公開されたケースにおいて、当時の都市社会や市民生活上の意義を検討した。例えば和歌山城址では建物がシロアリの被害を受ける一方、物産陳列場の一つとして近代の産業化の一端として利用されていたことが明らかになった。 第二に城址の「公園化」における文化的景観形成の思想と計画技術について分析を進めた。城址公園において城址が有する歴史的風致の取り扱いの観点から公園の設計や整備等について検討した。明石城址では公園管理者が変遷し、段階的に濠が埋め立てられるなど、歴史的風致の滅失の過程を明らかにした。和歌山城址では公園設計において歴史的風致の一部毀損が含まれ、それに対する議論が勃興した経過、また公園整備においてその毀損が回避された経過を明らかにした。 第三に橋の架け替えにおける文化的景観創出にみられる思想と計画技術について分析を進めた。藩政期において城下町の中心だった橋を対象に近代の架け替えの経過と景観形成について資料収集を進め、その分析の枠組みを検討した。
|