本研究では、古代の建築技術者の構造に対する認識の解明に向けて、ヘレニズム期の磨崖墓に着目し、その構造特性を明らかにすることを目的に研究を行ってきた。 前年度までの研究により、ファサード型の磨崖墓では、「通常、墓室が小さくなるほど、墓室内の最大主応力は減少するが、墓室の奥行きのみを短くした場合には、かえって墓室の最大主応力が応化する」ということを明らかにした。その後は、「独立型の磨崖墓の屋根形状が構造特性に与える影響」や「磨崖墓の周囲通路が構造特性に与える影響」といったように、検討する部位を変化させながら、その部位の変化が磨崖墓の構造特性に与える影響を明らかにしてきた。これに対し、R2年度の研究では、連結部の有無と屋根形状の違いが複合的に作用した場合の構造特性に与える影響について検討を行った。 磨崖墓は、細かな装飾や規模、プロポーションの違いはあるものの、その多くはイン・アンティス様式を採用している。そこで、解析結果がより多くの磨崖墓に適用できるよう、各磨崖墓の各部寸法の中央値付近に位置する磨崖墓を解析モデルのモデルとして選択することとした。そして、この解析モデルを基準モデルと位置づけて、連結部の有無や屋根形状を変化させながら構造解析を行った。 その結果、磨崖墓に生じる応力は、連結部の位置が後方になるにつれて増加するが、連結部の取り付け位置が0.6mでピーク値を記録した後、減少に転じることが分かった。また、屋根形状を変化させて連結部を付けた場合の応力も、上記と同様の傾向を示すが、屋根の変化位置と連結部の取り付け位置を一致させると応力を小さく抑えることができることが分かった。ただし、屋根の変化位置の直前に連結部付けた場合は、応力集中により、極端に大きな応力を生じさせる場合があることなども分かった。
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