研究課題/領域番号 |
16H04486
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
川本 重雄 近畿大学, 建築学部, 教授 (40175295)
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研究分担者 |
福田 美穂 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 准教授 (50379046)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 宮殿儀式 / 寝殿造 / 遣戸 / 中世民家 / 中国の宮殿 / ベトナムの宮殿 / 韓国の宮殿 |
研究実績の概要 |
「寝殿造の成立と正月大饗~開放的な日本住宅の起源~」(『日本建築学会計画系論文集』729、2016年11月)では、日本の住まいの最も大きな特徴である、開放性がどのようにして獲得されたかを検討した。開放的な日本の住まいが平安時代の寝殿造に始まること、宮殿儀式の変容に対応して、貴族住宅で宮殿での宴会を補う目的で、正月大饗が成立したこと、正月大饗を行うために貴族住宅が庭に向かって開かれた開放的な空間になったことなどを歴史的に解明した。 一方、寝殿造で成立した列柱空間を建具で囲うことによって部屋を作る手法がいかにして広まっていったかを明らかにするため、今年度は主に民家に着目し、中近世の絵画資料の調査、中世民家である古井千年家の実測調査、奄美大島、沖縄本島、久米島、伊是名島の民家調査を行った。絵画資料からは、桃山時代の『洛中洛外図』を境にして民家(町屋)の描写が大きく変化し、壁や扉があまり描かれなくなっていく。おそらくこの時期に引違の遣戸が普及したものと考えられた。古井千年家では引違戸は採用されているものの、戸の位置は柱と柱の間ではなく、まだ柱の内側にある段階であった。沖縄県の民家調査では、柱間寸法を畳割りで決定する部分と、規則性を持たない柱間寸法の部分が併存していること、一部に畳割り普及以前の民家があることなどを確認した。 一方、東アジアの宮殿建築・宮殿儀式の比較研究においては、研究協力者の助力を得て、葬祭施設及び葬祭儀式の比較を行ったほか、儀式書の内容の比較研究を行った。日本の儀式書が年中行事の順に記述され、細かい年中行事まで記載されるようになっていくのに対して、ほかの国々の儀式書では中国に倣って儀式の性格で儀式を分類し、項目を立てている点が大きく異なっていた。また、日本では伝統的な宮殿儀式が平安時代以来守られていく一方で、新たな儀式が加わっていく点に特徴がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、文献史料の調査、民家調査、比較研究によって構成されている。文献研究については平安時代前半までの資料に基づく成果として寝殿造の成立に関する論文をまとめ、次の段階の建具の成立と普及によって書院造の成立を検討する段階に至っている。特に大きな問題もなく順調に研究は進んでいると考える。 二つ目の民家調査では、兵庫県内の中世民家の実測と南西諸島の民家の予備的な調査を実施した。前者からは、柱間が正確に規格化されていないこと、柱にゆがみなどがあることが確認された。比較のために、江戸時代初期の民家を実測したが、誤差の少ない規格化された柱間寸法が認められた。柱間寸法の規格化が、建具で囲われた部屋を単位とする書院造の手法を取り入れることによって成立した可能性を強く感じることができた。南西諸島、特に沖縄県では、一部に規格化されていない柱間寸法の建物が残っており、近年まで掘立柱で民家が建てられていたことの名残が認められた。寝殿造から始まり、書院造へ受け継がれた空間が民家に取り入れられ、民家の形を変えていくと考えられた。そうした歴史的変化を今後詳細な調査によって確認していくことになるが、そうした一つの見方が生まれ、次につながる点で評価できると思う。 最後の比較研究では、葬祭施設・葬祭儀礼の比較研究、儀式書そのものの比較研究を実施した。これから従来より一層深い研究を共同で進めていく、共通の資料作りの方向性も研究会で討議されており、順調に研究が進んでいくものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の通り、 1)文献史料・絵画資料による日本建築の特質に関する考察 2)民家調査に基づく、住宅建築手法としての書院造の普及 3)東アジアの木造建築、特に宮殿建築および宮殿儀式の比較研究 を今後も深めていく予定である。 これに加えて、研究成果を英文で公表し、日本建築に対する理解を日本人以外にも理解できる工夫を行っていきたい。
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