研究課題/領域番号 |
16H04489
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 薫 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (30169924)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クラスター / ワニア関数 / 共有結合 / 金属間化合物 / 準結晶 / 近似結晶 / 局所ネットワーク / 原子当たり価電子数 |
研究実績の概要 |
Al 系とB 系において、「半導体準結晶」を探索し、実現し、「半導体準結晶」を利用して、高性能な熱電材料と熱整流材料を創製することを目的とした。さらに、関連研究として、様々な金属間化合物における熱電材料の創製や、B系化合物における超伝導材料の創製も目的とした。平成28年度には、主にAl系正20面体準結晶の探索に関連して、下記の研究成果を得た。 準結晶とある種の13 族元素遷移金属間化合物の電子構造の原子クラスターに基づく統一的記述に成功した。AlIr、RuAl2、RuGa3における価電子帯の形成を、ワニア関数に基づいて解析した。価電子帯を記述するためには、各遷移金属を中心とするクラスター当り9個の(s-,p-,d-的な)ワニア関数を考えれば十分であることが分かった。前に報告したAl-Cu-Ir近似結晶のように、クラスター間距離が約0.3nmのところに共有結合を作り、その反結合軌道が伝導帯の状態を作る。sp3d2-、sp3-、py-的なワニア関数が、それぞれ上記3化合物の共有結合に使われている。 次に、アルミニウムと遷移金属から成る面心型正二十面体準結晶中の局所クラスター配列と価電子状態数を明らかにした。6次元K-G山本モデルの原子当たりクラスター数0.263は、Al-Cu-Ir立方近似結晶の0.258に近く、このモデルがクラスターの分布で合理的に表現されることを意味している。クラスター間結合に関係する短距離の可能な局所ネットワークを全て拾い上げ、クラスター間結合の2つの可能な配置を仮定することによって、価電子状態数を評価した。原子当たり価電子状態数は、遷移金属原子の割合の関数で、その値は実際の準結晶の組成からの予想と良く一致した。特に、遷移金属の割合に依存しない価電子状態の一部の数は、準結晶の安定性に経験的に関係している原子当たり価電子数e/aと、数字的に近い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Al系正20面体準結晶の探索に関連して、研究実績の概要に記述した成果が得られ、すでに2編の論文として出版された。B系正20面体準結晶の探索に関しても、純Bの液体急冷を行い、X線回折パターンに、β菱面体晶ボロンとは異なるピークを観測している。
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今後の研究の推進方策 |
1)Al系正20面体準結晶の探索については、Al-Cu-Ir近似結晶や準結晶へのSi置換による半導体化を、実験的に確かめる。さらに多くの半導体バンド構造を持つ近似結晶を探索する。 2)B系正20面体準結晶の探索に関しては、純Bの液体急冷試料で観測されたX線回折パターンのβ菱面体晶ボロンとは異なるピークの起源を明らかにする。α菱面体晶やβ菱面体晶を基にした準結晶構造の凝集エネルギーを計算し、安定性を向上できる他元素置換を探索する。この計算に基づいて、他元素置換したボロンの液体急冷を試みる。 3)関連した金属間化合物における熱電材料の創製については、第一原理計算から半導体であることが予想されながら実験的には作製されていない正方晶Al2Feを、高温高圧で初めて作製に成功しているので、単相試料を作製して、熱電物性を評価する。 4)B系化合物における超伝導材料の創製については、Liを大量にドープできるβ菱面体晶ボロンの高温高圧下での、高温超伝導が期待できるLiドープα菱面体晶ボロンへの相変態を引き続き試みる。
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