15族元素のビスマス(Bi)は酸化物誘電体や超伝導体を構成する主要な元素となっている。本研究では、不活性雰囲気下で金属Bi融液(融点272℃)をフラックスとして用いることにより、低原子価の遷移金属酸化物や、遷移金属元素と-2または-3のイオン価数のBi陰イオン(ビスマス化物イオン)を共に含む化合物の単結晶を合成し、それらの結晶構造と結晶化学的な特徴や抵抗率などの電気的特性を明らかにすることを目的とした。 本年度は、Ti8BiO7の低温X線回折データの解析を進め低温相転移に伴う構造変化を調べるとともに、Biフラックスを用いて新たに単結晶が合成された遷移金属亜酸化物のTi3Zn3OxやTi8Bi9O0.25の結晶構造を解析した。さらに、昨年度報告したTi12-dGaxBi3-xO10と共にBiフラックス法で合成されたTi7Ga2O6やTi3GaO、Ti5Ga3Oの単結晶についても結晶構造解析を行った。Ti7Ga2O6は新規構造の新物質で、Ti3GaOは逆ポストペロブスカイト型構造の新物質であることが明らかにされた。Ti3GaOの単結晶では、室温から10 Kまで温度の低下とともに抵抗率が減少する金属的な導電性が示された。研究の過程で、亜酸化物の合成中に新たにBiGaTi4O11と(Bi1-xGax)2-dTi2O7-3d/2の3成分系新規酸化物が見出された。これらについてもX線結晶構造解析を進め、BiGaTi4O11は新規構造を有することを示した。BiGaTi4O11と(Bi1-xGax)2-dTi2O7-3d/2のセラミックスを作製し、光学的、電気的性質を調べた結果、いずれもバンドギャップが2.8から3.0 eV付近にあり、室温付近の比誘電率が40から130程度で誘電率変化の温度係数が+/-200ppm/℃以内の誘電体であることが明らかにされた。
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