研究課題
従来のペロブスカイト酸化物強誘電体では局所的な金属元素-酸素間の共有結合が結晶構造の反転対称性の破れをもたらすが,研究代表者らは,層状ペロブスカイトNaYTiO4において,構成元素の共有結合に依存しない機構,すなわち「頂点共有したTiO6酸素八面体の回転」によって結晶構造の反転中心が消失することを初めて実証した.本研究では,強誘電体の物質研究の新しいパラダイムの構築を念頭に,この原理を大きく拡張する.具体的には,「層状ペロブスカイトエンジニアリング」により酸素八面体回転を制御して,(1)ハイブリット間接型強誘電体の物質群を開拓するとともに,(2)このタイプの強誘電体に特有の物性・機能創出を目指す.平成28年度は,層状ペロブスカイト酸化物としてRuddlesden-Popper相に焦点を当て,酸素八面体回転制御に基づく強誘電性の発現を目指した.具体的には,第一原理格子動力学計算を用いてハイブリット間接型強誘電体の物質探索を行い,固相反応により候補物質を合成した.放射光X線・中性子回折,第二高調波発生,強誘電ヒステリシス測定により構造解析・物性評価を行った結果,いくつかの系において室温で強誘電相が安定化されることがわかった.また,高温その場放射光X線・中性子回折測定により構造相転移シークエンスも同定され、強誘電性がハイブリット間接型の機構によって現れることが明らかになった.これは強誘電相転移機構の解明につながる重要な成果である.
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は,ハイブリット間接型の機構に基づく新規強誘電体をいくつか見出すことができた.いずれも最終的な研究目的を達成するための重要な知見をもたらすものである.現在,この成果を論文としてまとめているところであり,インパクトファクターの高い学術雑誌に投稿する予定である.これまでの研究において,第一原理計算による物質探索・物質設計が非常に有効であることがわかり,研究の進展に大いに貢献している.また,国内および海外施設で測定した高精度な放射光X線/中性子回折データを使って,結晶構造を精密に同定することに成功している.強誘電体の評価装置も整備されつつあり,評価手法も向上した.今後,第一原理計算-構造解析-物性評価の有機的な連携により,ハイブリット間接型強誘電体の物質群が拡張し,このタイプの強誘電体に特有の物性・機能が見出される可能性は大いにある.
今年度は,これまでに得られた成果を発展させて研究をさらに加速させる.具体的には,回折法や分光法による精密構造の決定だけでなく,ナノスケール解析を駆使して強誘電ドメインを観測する.ハイブリット間接型強誘電体の基礎学理の構築を目指して,酸素八面体回転と強誘電性発現の関係,すなわち強誘電相転移機構を解明し,さらに磁性や可視光応答性をもつ多機能強誘電体を実現する.これと並行して,デバイス化を念頭にエピタキシャル薄膜の合成にも着手する.今年度の終了時点ではできるだけ多くの質の高い論文をインパクトファクターの高い学術雑誌で発表する.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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