研究課題/領域番号 |
16H04500
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
山田 直臣 中部大学, 工学部, 教授 (50398575)
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研究分担者 |
川村 史朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他研究員 (80448092)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 高圧合成 / エピタキシャル成長 |
研究実績の概要 |
H28年度は、ZnSnN2の粉体および単結晶薄膜の合成と構造解析ならびに物性制御に取り組んだ。 メタセシス反応を用いた高圧合成によって粉体を再現よく合成できるようになった。反応条件を詳細に検討し、合成可能な温度と圧力範囲を明らかにすることができた。さらに、X線回折(XRD)測定と理論シミュレーションから、合成できるはランダムウルツライト型構造であることを明らかにし,その格子定数は a = 0.3376 nm,c = 0.5467 nmと決定できた。 単結晶薄膜の合成については,上で得られた格子定数の値から,基板にYSZ(111)を選択しエピタキシャル成長を試みた。基板温度と窒素分圧を調整することによって良質な単結晶薄膜を成長させることができた。XRD測定によって,単結晶薄膜もランダムウルツライト型構造を有していることを確認した。Hall効果測定ならびにSeebeck効果測定から,成長させた薄膜はn型伝導を示すことがわかった。バンドギャップは1.7 eVであり,理論計算から予測されている値(1.4 eV)よりも大きいことも判明した。 単結晶薄膜においてZn/Sn比を変化させて電気伝導性の制御を試みたが,Zn/Sn比を変化させても電気伝導性はほとんど変化しなかった。粉体試料に関しても同様で,Zn/Sn比と電気伝導性に明確な関連性は見られなかった。その理由は,意図しない不純物として酸素が大量にドーピングされており,これがドナーとして振舞うためである。Zn/Sn比の変化に伴うキャリア濃度の増減よりも,酸素由来の伝導電子濃度が圧倒的に大きいために,電気伝導性が変化しないものと考えられる。つまり,ZnSnN2の電気伝導を制御するためには酸素不純物を低減させる必要があることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りに粉体合成・単結晶薄膜合成ができており,結晶構造についても当初の予定どおりに進んでいる。電気伝導性の制御についてはやや課題が残るものの,酸素不純物を低減させるという明確な方針が得られた。したがって,研究計画はおおむね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
粉体合成・薄膜合成ともに酸素不純物の低減が課題である。これを解決したうえで,Zn/Sn比の変化による電気伝導性の制御に取り組む。具体的には下記の4項目に取り組む予定である。 【1.ZnSnN2薄膜中の酸素量の低減】:意図しない酸素不純物は薄膜成長チャンバー中の残留水蒸気が起源である。そこで成長チャンバーに真空ポンプを追加して到達真空度を約2桁向上させ,低酸素不純物量のZnSnN2薄膜を成長させることに取り組む。酸素不純物量についてはX線光電子分光(XPS)法で定量する。XPSによって酸素が検出できない程度の不純物量にすることが到達目標である。 【2.ZnSnN2薄膜の導電性制御】:上記(1)で確立した成長条件を基に、Zn/Sn比を変化させた単結晶薄膜を成長させて、電気伝導性を制御することに取り組む。Zn/Sn比を連続的に変化させた試料を作製し、その電気伝導性やバンドギャップを調べ、組成変化による物性制御の可能性を探る。 【3.多結晶粉体の酸素不純物量の低減】:合成原料に含まれる水分や、合成時のカプセル構造・材料などの見直しを行い,酸素供給源を特定し,低酸素濃度の粉体試料を合成する。また光触媒特性についても調査する。 【4.多結晶粉体の高圧合成におけるZn/Sn比の制御】:H28年度でメタセシス反応を用いた高圧合成によってZnSnN2粉体の合成が可能になったが、Zn/Sn比が合成ごとに異なることが判明した。原料やその仕込み量,反応温度と合成圧力を見直し,狙い通りのZn/Sn比を有するZnSnN2を合成できるようにする。そのうえで,Zn/Sn比を変えた試料を作製し,組成と構造の相関を明らかにする。
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