研究課題
次世代のハードディスクでは2 Tbit/inchi2以上の密度で情報を記録することが確実視されている。この高密度情報を高速で確実に読取るためには、磁気ヘッドの革新が必須だ。主にホイスラー合金を中核とするハーフメタル部材の開発が進展している。一方、酸化物ハーフメタルも新材料として期待されているが、代表的なペロブスカイト型(La2/3Sr1/3MnO3)でも磁気転移温度が360 K程度と低く、転移温度の向上が課題だ。これまでのグローバルな研究から、5d元素を含有する場合に2重ペロブスカイト型酸化物の磁気転移温度が最も高くなることが判明した(>600 K)。しかしながら最適制御や機構解明には至っていない。本課題では、最近合成された比較的転移温度が高い複数の2重ペロブスカイト型酸化物を対象に、2種類の磁性元素の秩序/無秩序配置の程度、結晶の対称性、局所構造の歪みの程度、キャリアー濃度などを系統的に変化させ、転移温度の最適制御と、その背景にある学理を調査した。また、5d元素の役割を明確にし、マテリアルデザインに還元するため、周辺物質・関連物質を併せて調査した。H28年度は、2重ペロブスカイト型酸化物Ca2CrOsO6とCa2NiIrO6を合成して、その基礎物性を明らかにした。また、実験の過程で、斬新な発現機構を持つ強磁性絶縁体(Ba2NiOsO6)の合成に成功し、その発現機構の解明を進めた。いずれも、ハーフメタル的な電子状態に近接していると推測できるが、磁気転移温度が最大で460K程度と十分でない。しかしながら、上昇傾向にあるため、さらに物質開発を強めて、特性向上を目指す。
2: おおむね順調に進展している
高圧法で合成された2重ペロブスカイト型酸化物Ca2CrOsO6は460 Kで磁気転移を示すが、電気的絶縁体であり、目的とするハーフメタル状態と異なっていると推測できる【論文準備中】 。また、Sr2YOsO6の電気的絶縁性は、第一原理計算結果が示す電子状態と一部が定性的に一致しないため、誘電率やインピーダンス測定を通して、その電気的絶縁性を詳細に調査した。その結果、理論的に示唆された磁気秩序の有無に依存する伝導性の変化が認められまかった。さらに理論的考察に立ち返って研究を深める必要がある【論文投稿中】 。一連の実験の過程で、ニッケルを含む新物質の合成に成功した。それがこれまでにない発現機構による強磁性絶縁体であることを明らかにした。この新物質の磁気転移温度は低いため(~100K)、実用的でないが、スピントロニクス分野で開発が盛んな室温磁性半導体を狙える新しい門戸を開いた【Feng et al., Phys. Rev. B 2017】。
2重ペロブスカイト型酸化物は2種類の磁性元素の組み合わせに依存する多様な物性を示す。本課題では2重ペロブスカイト型酸化物の広範な新物質開拓、新機能性開拓、高品質単結晶育成、精密結晶構造解析、先端物性評価に引き続き取り組む。特にスピン軌道相互作用が強い5d元素を含む新物質探索を推進し、高温酸化物ハーフメタルの実用材料シーズの開発に向けた基礎基盤を充実させる。H29年度は、前年度までの実験結果を基礎として、2重ペロブスカイト型酸化物Ca2CrOsO6とCa2NiIrO6の連続固溶体の合成に注力する。さらに、精密な物性測定に必要なSr2CrOsO6の良質単結晶を育成する。この単結晶育成に高圧フラックス法を採用して、例えばアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物(LiCl, NaCl, KCl, CaCl2, SrCl2)、酸化鉛(PbO)、塩化鉛(PbCl2)などを溶融助剤として最適添加して、様々な圧力、温度条件下で結晶育成の適否を検討する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Physical Review B
巻: 95 ページ: 020413
10.1103/PhysRevB.95.020413
Chemical Communications
巻: 53 ページ: 3826~3829
10.1039/c7cc01011g
Phys. Rev. B
巻: 94 ページ: 235158-1-9
10.1103/PhysRevB.94.235158
J. Solid State Chem.
巻: 243 ページ: 119-123
10.1016/j.jssc.2016.08.022