研究課題/領域番号 |
16H04515
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
犬飼 潤治 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (70245611)
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研究分担者 |
斎木 敏治 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70261196)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | CARS / 光学プローブ / 入射光 / エネルギー密度 / 位置安定性 |
研究実績の概要 |
研究当初に溶液中分子を用いた時には、光学プローブを用いて十分な感度の分子振動のCARSシグナルが得られた。そこで、本年度は、固体高分子形燃料電池中に光学プローブを導入してナフィオン膜からのCARSシグナルを得ることを試みた。膜電極接合体の額拡散層と触媒層に500 μm程度の穴をあけ光を入射したところ、CARSシグナルは大変微弱でノイズレベルと同程度であった。燃料電池を組んで、その中で測定しても同様であった。これは、CARS光は二つの入射光ベクトルの合成されたベクトル方向に特異的に強く生じるため、逆方向に存在するCARS光は原理的にたいへん弱くなるという性質からである。プローブを介しての検出は、さらに困難であった。そこで、プローブを用いないCARS測定の洗い直しに取り組んだ。光学系については、光学機器の汚れも含め、光路が最適化されていないことがわかっていたので、まずはこれに取り組んだ。さらに、光学系全体をフードで覆い、大気中の微粒子の影響を防ぐとともに温度・湿度のコントロールを行った。これにより、入射レーザーのエネルギー密度および位置が、1時間程度安定するようになった。焦点の直径は、以前の50 μmから10 μm程度に小さくなった。さらに、CARSは3次元の非線形過程より生ずるがその過程で他の光学過程による光も生まれるため、バックグラウンドの解析に関する論文を参考に、得られた測定データからバックグラウンドを除去するための解析手順の見直しを行った。このようにして、全体のCARSシグナルは増大したが、入射光と逆方向に向かうCARS光の量は予想した値よりも小さく、プローブを介したCARS光の光量は振動スペクトルの取得に十分ではなかった。CARS光を多く得ようとして入射光のエネルギー密度を増大させると、試料が熱で破損してしまうというジレンマが生じている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していたよりも燃料電池やその部材からのCARS光の指向性が強く、光入射をする光学プローブに戻ってくるCARS光の強度が小さかった。そこで、光学系を新たに構築し、測定環境も整備しなおすことにより、入射光の安定性は大幅に向上した。ピントを10 μmまで絞ることにも成功しCARS光自体の発生は大きくなった。一方で、ピントを絞ったために同じレーザー出力でも試料への損傷が大きくなった。現時点での方向性を保ってシグナルを得ることは、困難である。そのために、研究対象を燃料電池に絞り、電解質膜から得られるCARS光を大きく増大させることのできる、反射層の構築を新たに計画することとなった。このように、測定対象にも手を入れなければならないことが明らかになったために、研究はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
CARS光の指向性が強く、光入射にも利用する光学プローブに戻ってくるCARS光の強度が小さい。そのために、燃料電池を研究の対象として絞り、電解質膜から生じたCARS光を増大させることのできる反射層の構築を、触媒層に行うことを目論んでいる。 1)光学系およびデータ処理の見直し CARS光が微弱であっても、バックグラウンドが小さければ振動スペクトルは、より検出しやすくなる。そのため、測定時のバックグラウンドを小さくするために光学系をもう一度見直すとともに、バックグラウンドをより精密に差し引きする手法を考案する。これは今までの方向性であるが、もう一押しの向上をさせる。 2)燃料電池内部構造の見直し 測定対象を燃料電池にしぼり、CARS光の反射を検出に利用する方法を試みる。具体的には、アノード触媒層からの反射を増強させる。反射層として白金膜を用いる予備実験は既に行っており、良好な結果を得ている。物質移動を阻害しないために、実際には直径数100 nmの白金粒子やパラジウム粒子を用いて、発電反応に影響を与えない反射層を構築する計画である。この手法は一般性を持ち、今後二次電池などにも利用できると考えられる。
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