CARSスペクトルの解析のためには様々なデータ処理が必要となる。本年度はこのデータ処理について検討し、発電中燃料電池電解質膜内部の水の分類(スルホン酸基に結び付いた水、プロトン化した水、疎水部の中で孤立した水)と定量に成功した。 得られたCARSスペクトルは非線形の散乱部分をバックグラウンドに有するため、これを理論式から見積もり、スペクトルから差し引いた。その後このスペクトルをローレンツ関数を用いてデコンボリューションして複数の種類の水に分類した。それぞれの水の定量は、まず、所定の相対湿度に電解質膜を静置して定常状態になったところでCARSスペクトルを測定し、それぞれの相対湿度においてデコンボリューションを行った。デコンボリューション後のピーク強度は水分子数と1:1に対応すると近似して検量線を取得した。この検量線を用いて、燃料電池発電中における水の分類と定量をおこなった。一連の作業はコンピュータプログラムを組んで、自動的に行われるようにした。 シグナルが微小になることから、プローブを用いた測定時にはこのような精緻な解析は不可能であった。したがって、AFM用の光学プローブを用いて精緻な水の定量を行うことはできず、最終的にCARSとAFMを融合するという目標には至らなかった。AFMについては、加湿水素雰囲気化において、対象となる燃料電池用薄膜の表面を、プロトン電流と構造とを同時に操作することを行った。明瞭な電流像を観察することに成功した。
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