研究実績の概要 |
フェライト相とセメンタイト相のラメラ状組織であるパーライトは工業的に最も重要な脆性/延性積層構造であると言える.パーライトのラメラ間隔が極めて小さくなるとセメンタイト相も室温で塑性変形を示すことが知られているが,なぜ脆性的なセメンタイト相が塑性変形を示すようになるのか,その靭性化機構の詳細は不明である.本研究では,セメンタイト相単結晶の微小力学特性評価(塑性変形能・弾性定数・破壊靭性)のみならずサブミクロンサイズのパーライト薄膜試験片のSEM内その場観察引張試験を行うことにより,パーライト中の脆性セメンタイト相の靭性化機構を解明することを目指した.微小試料加工技術(FIB法)やナノインデンターベースの微小試験技術を直方晶系のセメンタイトFe3C相に適用することにより,(010)[100]すべり系がもっとも容易なすべり系であり,それ以外に(001)<110>, {011}<011>,{110}<111>などのすべり系が活動することを明らかにした.(010)面すべりの一般化積層欠陥エネルギーを第一原理により計算したところ,[001]方向すべりよりもバーガースベクトルの長い[100]方向すべりが選択されるのは,[001]方向の積層欠陥エネルギーが極めて大きいことに起因することがわかった.活動することを見出したすべり系によってvon Mises条件が満たされることより,パーライト中でセメンタイト相(多結晶)が変形能を示し得ることが理解できる.またセメンタイト単結晶のX線非弾性散乱実験により,9つの独立な弾性定数をおおまかに見積もることができた.
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