歯科用Ag-Pd-Cu-Au系合金であるG12(Cu/Ag:0.367)は、比較的高温の固溶化処理のみにより、時効硬化に匹敵する高強度を示すことが著者らによって報告されている。しかし、同系合金において種々の熱処理条件による固溶化処理を施した場合のミクロ組織と力学的特性(引張特性および疲労特性等)の変化について、系統的に調査されていないのが現状である。そこで、本研究では、種々の熱処理条件で単一熱処理(固溶化処理)を施したG12のミクロ組織および機械的強度の関係を調査・検討した。 各熱処理条件におけるG12のBSEによるミクロ組織は灰色のCu-richな母相であるα1相、白色のAg-richな母相であるα2相および黒色のPdCu系金属間化合物であるβ相の3相から構成されていた。この場合、熱処理温度あるいは時間の上昇と伴にα2相あるいはα1相は粗大等軸化した。 1023Kにて固溶化処理を施すと著しい軟化傾向を示したが、その後、熱処理温度の上昇と伴に硬さが増加し、1173 KではSTAとほぼ程度の値を示していた。1023 Kにて固溶化処理を施した場合の軟化は、製造プロセスで生じた析出相が母相へ固溶したためと考えられる。また、1113 K以上での熱処理温度上昇に伴う硬化は、比較的高温の固溶化処理により、α2相中に長軸:100 nmおよび短軸:数 nmの規則相析出のためと考えられる。受け入れまま状態のG12および各熱処理条件にて固溶化処理を施した同材料の引張特性において、最も高い硬さを示した1173 Kの引張強さSTAのそれより100 MPa程度低いが、ST温度の上昇とともに増加傾向を示していた。 以上のことより、単一熱処理である固溶化処理温度を制御することにより、機械的強度の制御が可能であることが示唆された。
|