研究課題/領域番号 |
16H04526
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
伊藤 賢志 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (90371020)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 陽電子消滅 |
研究実績の概要 |
本研究では、非晶領域の分子間空隙を実験的に評価できる唯一の方法である陽電子消滅法を応用し、薄膜部材に適用可能な、放射性同位元素Na-22(RI)ベースのパルス化低速陽電子ビームを利用した高安定性の陽電子寿命・運動量相関(AMOC)測定システムを開発するとともに、基準薄膜のナノスケール空隙中で消滅したオルトポジトロニウムのピックオフ反応により発生した消滅ガンマ線の運動量分布を系統的に解析してその元素マッピングを解明する。これにより分離膜などの薄膜材料中の分子間空隙の大きさとその表面化学を同時評価可能な新規手法を確立し、各種機能性膜の研究開発現場にこれまでにない設計指針の構築手法を提供する。 今年度は、開発した低速AMOC測定システムの信頼性を確保するため、陽電子寿命測定と陽電子消滅ガンマ線分光測定の各計測系の妥当性を陽電子寿命測定用認証標準物質を用いて確認するとともに、陽電子照射エネルギーを1 keVから10keVの範囲で変化させながら、寿命と運動量の各消滅パラメータの測定を試みた。また、本研究で提唱する機能性薄膜中のサブナノスケール空隙化学解析法を実証するために前年度に作製したPECVD法によるモデル薄膜試料のAMOC測定を行い、運動量分布・元素マッピングのためのデータを蓄積した。さらに、AMOC測定システムの開発状況および基準試料や作製したモデル薄膜について得られた分析結果を国際会議「12th International Workshop on Positron and Positronium Chemistry (PPC-12)」にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度開発した放射性同位元素Na-22(RI)ベースの低速陽電子寿命・運動量相関(AMOC)測定システムの妥当性を確認するため、陽電子寿命測定用認証標準物質(石英ガラス)のAMOCデータを陽電子照射エネルギーが5 keVの条件で観測し、ナノスケール空隙中で消滅したオルトポジトロニウム(o-Ps)の平均寿命と、その消滅ガンマ線の運動量分布を評価するためのSパラメータを解析した。その結果、o-Ps平均寿命は認証値(1.62 ns)と不確かさの範囲で一致し、Sパラメータは過去にシリカガラスのバルク測定で得られた結果と同等であることが確認できた。さらに、RIベース低速AMOC測定システムを活用し、前年度作製したシリカ・シロキサンCVD複合膜のAMOCデータを取得した。AMOCデータを解析して得られたナノスケール空隙中のo-Ps消滅に由来する陽電子寿命が2ns以上のSパラメータの平均値は、FT-IR測定で得られた末端メチル基に由来する吸収ピーク強度に相関することが明らかになった。この結果は、シロキサンモノマーの増加ととともに末端メチル基が導入されると同時にナノスケール空隙が新たに形成され、そこでo-Psが消滅したことを示しており、有機・無機複合膜中に存在するナノスケール空隙の化学状態が低速AMOC測定で追跡できることの実証に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の二項目について研究計画を立て、各記載の推進方策にて研究開発を実施する. (1)低速パルス化陽電子寿命-運動量相関(AMOC)測定システムの開発 開発した測定システムの計測効率をさらに向上するため陽電子源の改良をすすめ、安定した計測環境の構築を図る。低速AMOCシステムの測定安定性を確固たるものにするため、モデル薄膜試料および陽電子寿命測定用標準物質を用いて繰り返し測定精度の定量評価を行う。 (2)低速AMOC法によるサブナノ空孔表面化学解析法の実証 本研究で提唱する機能性薄膜中のサブナノ空孔化学解析法を実証するための単一(有機高分子系)及び複合組成(無機/有機高分子系)薄膜基準試料を引き続き作製する。また、陽電子照射エネルギー依存性を測定し、空孔化学状態の深さ分布解析を試みる。これら実証試験により得られた知見に基づき実材料の自由体積解析に適用する。
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