本研究では、非晶領域の分子間空隙を実験的に評価できる唯一の方法である陽電子消滅法を応用し、薄膜部材に適用可能な、放射性同位元素Na-22(RI)ベースのパルス化低速陽電子ビームを利用した高安定性の陽電子寿命・運動量相関(AMOC)測定システムを開発するとともに、基準薄膜の系統的解析によりサブナノからシングルナノスケール空隙(サブナノ/ナノ空孔)中で消滅したオルトポジトロニウムのピックオフ反応により発生した消滅ガンマ線の運動量分布元素マッピングを解明する。これにより分離膜などの薄膜材料中の分子間空隙の大きさとその表面化学を同時評価可能な新規手法を確立し、各種機能性膜の研究開発現場にこれまでにない設計指針の構築手法を提供する。 今年度は、開発した低速AMOC測定システムを機能性薄膜に適用するための応用研究を進めた。プラズマ誘起化学気相堆積法により作製した熱的に不安定な有機相を分散した有機シリカ膜を600℃までの異なる温度で焼鈍することによりサブナノ空孔構造を形成し、それぞれの薄膜試料の低速AMOC測定を行った。形成されたサブナノ空孔に捕獲、消滅したオルトポジトロニウムに起因するSパラメータは炭化水素ポロゲンの存在量に相関した。これらの結果から低速AMOC法によりナノスケールの空隙中の化学組成を評価できることを示すことができた. さらに、低速AMOC測定システムを活用したシロキサン系積層膜と有機シリカ複合膜の空孔形成にともなうサブナノ空孔内の化学状態の分析結果を国際会議「18th International Conference on Positron Annihilation (ICPA18)」にて発表した。
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