研究課題/領域番号 |
16H04533
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉見 享祐 東北大学, 工学研究科, 教授 (80230803)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フェライト / ラーベス相 / 耐熱鋼 / 組織制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,新規超フェライト耐熱鋼を創造するためのラーベス強化相の多成分デザインを推進するため,Thermo-Calcを使って計算状態図を検討し,これに基づいてFe-17wt.%Cr鋼にNbおよびBを添加したモデル鋼を実験的に作製した。ラーベス相の析出挙動を制御する目的で,このモデル鋼に対して室温における冷間,ないしは300°Cにおける温間で圧下率80%の圧延により加工ひずみを導入(予ひずみ効果)し,圧延フェライト鋼の回復・再結晶挙動を明らかにすると共に,ラーベス相析出挙動に対するミクロ組織,転位下部組織の影響を系統的に調査した。その結果,Nbを添加した試料に適切な時効熱処理を加えることで,ラーベス相析出による時効硬化が発現することを明らかにした。また,ラーベス相析出および再結晶温度に与えるB添加の影響はNb添加量に依存し,適当なNb添加量の場合にはBはラーベス相の析出を遅延し再結晶温度を上昇させる効果があることを突き止めた。ただし,Nb添加量がさらに増加すると,この効果は失われることがわかった。このことから, NbとB添加量を最適化することによってラーベス相の析出および成長が抑制されるため,固溶強化に寄与するNb固溶量の増加と析出ラーベス相の安定化によって,強度は上昇すると理解された。さらに,熱機械分析法を用いることによって,試料の再結晶温度の測定・定量化が可能であることを実験的に明らかにした。このとき,再結晶温度は,固溶Nb量ならびに微細析出物量の増加によって上昇させることが可能であるという知見が得られた。以上のように,新規超フェライト耐熱鋼を創造するためのラーベス強化相の多成分デザインにおいて,Nb,Mo,Wといったラーベス相形成元素の濃度の最適化に加え,Bの微量添加がミクロ組織制御に対して効果的であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,当初の計画どおり,Fe-Cr鋼中にラーベス形成元素であるNb,Mo,Wなどを複合添加したモデル鋼を複数作製し,組成に依存したラーベス相の生成・析出・成長過程を明らかにすると共に,これに対するBの微量添加の効果まで踏み込んで検討を開始し成果を得ている。また,ラーベス相の生成・析出・成長過程に関係する予ひずみの効果とそれによる回復・再結晶挙動の変化を系統的に調査し,その詳細を明らかにした。この過程の中で,これまで回復・再結晶挙動の定量化に対して熱処理条件とミクロ組織を関連づけるために膨大な実験を必要としてきたところを,熱機械分析法を用いることで比較的簡便に定量評価する手法を確立することができたことは大きな前進である。さらにAl添加は,本研究で検討している成分系ではFe2Nbラーベスを著しく安定化することが明らかにし,Fe2Nb系ラーベス相のトポロジカル稠密構造の安定性に関する理解を深めた。これによって,Alを添加した場合には,Fe2Nb系ラーベス相の溶体化・時効析出が事実上不可能であることも示され,ラーベス相強化を目的としたミクロ組織制御に対して重要な知見を得た。一方,磁気変態点の上昇による拡散挙動の抑制に関しては,研究計画時の発案どおりに進まなかった。Fe-X二元系状態図では明瞭な磁気変態点の上昇を示しているCoやVであるが,本研究で検討を進める多成分系では磁気変態点上昇の明瞭な効果が認められず,これはCrやその他の複数元素による磁気変態点降下に強く影響されたためと考えられるため,この点について今後,研究計画の再検討が必要である。このことに関連して,現在のところ,ラーベス相による析出硬化は時効温度600°Cが最適であり,これ以上の温度では過時効となってしまう。鋼の耐熱性向上には,ラーベス相のさらなる熱的安定性を図ることが重要であり,検討を要する。
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今後の研究の推進方策 |
各種モデル鋼の中で,フェライト母相の固溶強化,結晶粒微細化,転位強化(ひずみ硬化),ラーベス相の析出強化を考慮の上,高温クリープ強度が期待できる複数のモデル鋼に対して室温から高温の機械的性質を評価し,ミクロ組織との関連性を明らかにする。機械的性質の理論的考察には,転位論に必要不可欠な高温の各種弾性率の情報が必要となるが,残念ながら申請者がこれまで採用してきた電磁超音波共鳴法では,磁性の影響により弾性率測定が不能である。そこで高温弾性率を測定するため,学内の共同利用施設等にある片持共振式固有振動法に基づいたねじり振動による動的測定を検討する。一方,ひずみゲージを使用した静的測定法では600°Cといった高温では測定できない。しかし申請者は過去の研究で,室温以上の温度範囲では相変態等が無ければ弾性率の温度依存性はほぼ直線近似できることを示した。そこでこの原理にしたがって,ひずみゲージを使った静的測定で耐熱限界近くの300°C程度まで弾性率を測定し,これを対象温度範囲に外挿することで高温弾性率を得ることも検討に加える。ここで状態図に基づけば,モデル鋼の組成変化でフェライト母相と平衡するラーベス相の組成を変えることなく体積率のみを変化させることができるはずである。そこで,ラーベス相の体積率の異なる複数鋼の弾性率を測定し,得られた弾性率と構成相の体積率から方程式を解くことによって,母相,ラーベス相各々の弾性率を求める。モデル鋼に対して,引張変形,ならびに高温引張クリープ変形実験を実施し強度とその温度依存性を評価すると共に,変形組織を透過型電子顕微鏡等で観察し,上記で得られた各相の弾性率の温度依存性を使いながらモデル鋼の強化機構を考察する。最終的には,新規超フェライト耐熱鋼を創造するためのラーベス強化相の多成分デザインに向けて,提言を行う。
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