研究課題/領域番号 |
16H04541
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大野 宗一 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (30431331)
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研究分担者 |
澁田 靖 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (90401124)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | デンドライト / フェーズフィールド法 / 優先成長方位 / 分子動力学法 / 界面物性 / 凝固組織 |
研究実績の概要 |
本研究は、合金凝固において結晶の優先成長方位が溶質濃度に依存して遷移するという新奇の現象に関わる凝固学理の発展をめざし、(1)遷移現象が生じる合金系の探索、(2)遷移現象を支配する因子の解明、そして(3)この現象を利用した組織制御法の発展、の三つの課題を実施している。 本年度は、Cu-Zn、そしてNi-Co合金を対象にfcc固溶体デンドライトの優先成長方位に対する添加元素の影響を系統的に調査した。これらの合金をBridgman型一方向凝固装置で凝固させ、その一方向凝固材に対してシリアルセクショニングを行い、デンドライト一次枝の成長方向を特定し、さらにEBSD解析から優先成長方位を決定した。その結果、CuにZnを添加することでCu固溶体の優先成長方位は<100>から<110>に遷移することが明らかになった。さらに、この優先成長方位遷移現象はNi-Co合金でも発現することも明らかになった。 この優先成長方位の遷移現象は、固液界面エネルギーの異方性強度が溶質濃度に依存することを表しているが、その濃度依存性を簡便に特徴付けるパラメータが必要である。本研究ではfcc固溶体の<110>成長は準安定相のhcp固溶体の安定性が関与していると考え、CALPHAD法による相平衡計算から、fcc-hcp間の自由エネルギー差をもとめ、上記の結果と比較した。その結果、hcpの相対的な安定性が増すことで優先成長方位が<100>から<110>に遷移する傾向が示された。 上記の内容に加えて、本年度は、次年度で実施する分子動力学法による固液界面エネルギー異方性強度の算出のためのコーディングを実施し、純物質を対象に異方性強度の算出も行った。さらに、遷移現象における組織予測のための定量的フェーズフィールド・モデルの構築も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デンドライトの優先成長方位遷移現象は、先行研究で明らかにされたAl-Zn合金のみならず、Cu及びNi合金でも発現することが本年度の研究で明らかになった。つまり、本研究がターゲットする遷移現象が、Al合金のみの特異な現象ではなく、他の合金系においても広く考慮すべき重要な現象であることが実証された点は、大きな進展と考えられる。さらに、現象支配因子の特定に関して、fcc-hcp相安定性からある程度説明できることが見出されたことも、次年度の解析を進めるうえで大変重要な進展であるといえる。最後に、組織制御法の発展に関して、当初の計画通り、モデリングを達成できたため、本研究全体の計画に照らし合わせて、本課題は順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、優先方位遷移現象が他の合金系でも生じるのかを一方向凝固材のシリアルセクショニングによって調査する。特に、H28年度のCALPHAD解析においてfcc-hcp相安定性の観点から、遷移が生じると予想されるCu-Al合金と遷移が生じないと予想されるNi-Cu合金の優先成長方位を調査する。さらに、この遷移現象における方位を定量的に予測可能な物性値の特定も試みる。そのサポートデータを得るために、分子動力学法によって、合金における固液界面エネルギーの異方性強度も算出する。このためには分子動力学法から合金の平衡状態図を算出することも必要となり、その高精度計算のためのコーディングを実施し、解析を行う。また、優先成長方位遷移現象を利用した凝固組織制御技術の発展のため、定量的フェーズフィールド・シミュレーションによる組織形態マップの作成を行う。
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